プリウス回収 安全意識は十分だったか

 ハイブリッド車の新型「プリウス」のブレーキが利きにくいという苦情に対応し、トヨタ自動車は日米の27万台超を対象としたリコール(無料の回収・修理)に踏み切る。
 1月末にアクセルペダルの部品の不具合で米国などでの大規模リコールを決めたばかりだ。昨年はアクセルペダルがフロアマットに引っかかる問題が米国で表面化し自主改修していた。
 相次ぐ品質問題が消費者と市場に不安を与えている。今回は特に、トヨタの技術力を結集したハイブリッド車のリコールだ。企業イメージや業績面の打撃も避けられまい。
 トヨタは、アクセルペダルやブレーキシステムといった車の基本性能にかかわる部分で問題が起きていることに注意するべきだ。安心して自分の命を預けられる、他人を危険にさらさないという、車への最低限の、しかし最も大切な信頼感が揺らいでいるのだ。
 そうした問題意識がトヨタにあったのか、疑問を持たざるを得ない。
 新型プリウスには昨年秋から苦情が寄せられていたが「感覚的なもの」として公表しなかった。苦情が増えたため1月からはソフトを変更している。国への報告はまだだ。
 5日に一連の問題について初めて社長が会見し、陳謝した。だが、プリウスをリコールするか自主改修にとどめるかの具体策は示さなかった。
 節目の決断が遅れて対応は常に後手に回った。説明や情報開示が不十分で、さらに不信をあおった。危機意識の希薄さが招いた失態といえよう。
 仮にトヨタの言ってきたように技術的許容範囲内の事柄であるとしても、広く情報を公開した上で、消費者が納得できるまで丁寧に説明する姿勢が必要だった。
 リコールの決定は、消費者の声や世論に追い詰められた結果ではないか。安全へのスタンスをしっかり固め、自ら厳しく戒めつつ導き出した結論とは見えないことが残念だ。
 新型プリウスは旧型と合わせ国内新車販売台数で昨年の1位の人気車だ。低価格化の実現で本格的な環境車時代の幕開けを告げた。コスト削減努力が過ぎて安全対策がおろそかにならなかったか、十分な検証が要るだろう。
 企業としての意思決定の在り方にも疑問が示されている。世界販売首位のおごりや、身内の論理に凝り固まった大企業病などあってはならない。
 一度失われた信頼を取り戻すには長い時間を要する。近道はなく、安全と品質を最優先する姿勢を貫くしかない。トヨタの一挙一動に世界の注目が集まっている。幹部が呼ばれた10日の米議会公聴会ではしっかりと説明し、理解を得る努力を求めたい。

新潟日報2010年2月9日

ハーグ条約 家族観の違いでは済まぬ

 国際結婚の破綻(はたん)で生じた親権問題の解決を図る「ハーグ条約」に加盟していない日本に対して、国際的な圧力が強まっている。
 今月初めに来日したキャンベル米国務次官補は北朝鮮拉致問題への影響にまで言及し、政府に加盟を強く求めた。
 昨年10月には米国など8カ国の大使が千葉景子法相に加盟を要請、11月の日米首脳会談でもオバマ大統領が鳩山由紀夫首相に申し入れている。
 欧米では日本人配偶者による子どもの連れ去り帰国が相次ぎ、社会問題にもなっている。キャンベル発言は、条約加盟に前向きな姿勢が見られない、日本政府へのいら立ちを示したものといっていい。
 ハーグ条約の正式名称は「国際的な子の奪取に関する条約」である。欧米を中心に約80カ国が加盟し、主要7カ国では日本だけが未加盟だ。
 条約では連れ去りがあれば、子どもをまず元の居住国に戻すことを原則とする。申し立てを受けた国は、子どもの所在を捜し出して、相手国に帰す義務が課せられる。
 日本の民法は「単独親権」を採っている。そのため離婚イコール「縁切り」が一般的だ。離婚後に子どもを引き取るのは母親との考えも根強い。親権を失った父親が子どもとの面接権を制限されるケースも目立つ。
 だが、欧米では離婚後も親権は「共同」としている。父親にも母親にも親権があるということだ。一方が許可なく連れ去れば「子の奪取」となり、誘拐罪に問われる可能性もある。
 米、英など4カ国の政府が把握しているだけで、日本人による「子の奪取」は160件以上あるとされる。逆に昨年9月には、登校中の息子と娘を車で連れ去った米国人男性が、未成年者略取容疑で福岡県警に逮捕された。
 家族観の違いがトラブルの根底にあるのは確かだが、欧米には親と子を引き離す日本は「非人道国家」の声もある。米国では子どもに会えない父親が議会陳情を繰り返しているという。
 国際結婚は珍しいことではなくなった。当然、国際離婚も増えてくるはずだ。「文化の違い」だけでは済まされない問題となっている。日本は国際離婚を想定した法整備など、加盟に向けた取り組みを急ぐべきだろう。
 何より子どもの幸せを考えたい。離婚は親の問題で、子どもに責任はないはずだ。国際結婚であろうがなかろうが、離婚しても共に育てるという意識を定着させる必要がある。
 国際結婚は究極の異文化交流ともいえる。当初は気にならなかったことも、一度亀裂が入れば止めどなく広がる。互いの文化を寛大に受け入れてこそ、幸せな家庭がつくれる。

新潟日報2010年2月9日