検証・日本海横断航路問題

 県が進める日本海横断航路計画で中古船の契約トラブルが起きて多額の損失が出る恐れがある問題は、仲裁判断が出て2カ月がたった今も先行きが全く見通せない。泉田裕彦知事は先週、この問題を巡る新潟日報社の報道を理由に挙げ、4選出馬を断念した。県側は第三セクターのペーパー子会社を契約名義に使い、知事らは県と三セク、子会社が別法人であることを強調する。しかし、新潟日報社が入手した内部資料や関係者の証言からは、県と三セクが一体的に船の選定や購入交渉を進めてきたことが判明している。浮き彫りになったのは、責任逃れ、責任転嫁と言うべき知事の姿勢だ。政党や団体などの支持離れで選挙態勢の構築が困難になっていた中、正当な報道を出馬取りやめの理 由に挙げた不可解さ、理不尽さは際立つ。横断航路計画問題の経緯や事実関係を整理、検証するとともに、利害関係のない学識者の解説を交えて問題の実相をまとめた。

2016年9月7日 新潟日報朝刊掲載

船選定から県が関与 知事の責任逃れ鮮明

[県-三セク-子会社] 3者の一体性 次々明らか
県は「別法人」を主張 ペーパー会社、実体なし

 中古フェリー・オハマナ号の売買契約が結ばれる2日前、2015年8月24日。県庁で泉田裕彦知事への説明が行われた。

 県の内部資料や関係者の話によると、知事に対し県職員が「契約目前」であることを報告。韓国で事故を起こしたセウォル号の運航会社が所有していた船だったことなども説明した。

 知事は「いよいよ船が決まりましたか。分かりました」と答えたという。その場で知事は、出資金3億円を新潟国際海運に支出する決議書にサインをした-。

<県の主張>

 日本海横断航路計画の契約トラブルが明らかになって以降、県は第三セクターとなった新潟国際海運と、その100%子会社で契約名義にしたペーパー会社のNAFJパナマ(パナマ社)から事前に購入契約の報告がなかったとして、「県へは事後報告でしたので、関与していません」(泉田知事)としてきた。

 つまり、契約トラブルは国際海運と子会社のパナマ社が引き起こしたもので、県は関与していないという主張だ。

 県交通政策局は、県や国際海運などの「役割分担」を描いた図を作成、公表している。それを基にしたのがグラフィック上部の関係図だ。

 その図では県、新潟市、経済界は国際海運への出資、運航支援だけを行う存在として描かれる。国際海運は子会社のパナマ社に情報提供や資金融通をするが、売買契約やトラブルの当事者はあくまでもパナマ社としている。

 泉田知事は「県民の皆様へ」とした発表資料で、日本海横断航路が過去に2回頓挫したことから、「自前の船舶で安定運航を目指すこととし、行政としてもこれを支援することとした」と説明。「具体的船舶売買は、出資を受けた会社の子会社の取締役会決議事項で、民間主導で行われることを想定した制度設計でした」としている。

 さらに、船の速度不足などを理由に受け取りを拒否した経緯に触れ、「なぜ、パナマ社の社長は、関係者会議で船舶の問題点が指摘されていたのに、取締役会に問題がないと報告して、取締役会決議を行ったのか」と、パナマ社に対する「疑問点」を列挙している。

<取材結果>

日本海横断航路計画の関係者会議の内容を記した内部文書など。出席者の名前部分を新潟日報社が加工した

 県、国際海運、パナマ社は別々の「独立体」であるとの主張に対し、新潟日報社が入手した資料や関係者への取材では、3者が一体的に船の選定作業や契約交渉を進めてきたことが次々に判明した。

 15年8月20日には県幹部と国際海運などの関係者会議が開かれ、購入価格や手付金はもちろん、支払口座の開設方法、引き渡しの場所と時期など契約の詳細な条件が報告されていた。24日には冒頭の「いよいよ船が決まりましたか」との知事発言が記録されている。

 契約直後の28日の関係者会議では国際海運が26日に契約したことを報告した上で、改造費が増大する見込みとして、県負担が増える可能性も示している。

 そもそも、県と国際海運は6月に船をチェックする「検船」を一緒に韓国で実施。8月11日には県幹部が仲介業者に対して「このタイミングでオハマナを確保したい」と要請、これを受けて同日夕方に国際海運が韓国企業側に「オファー」をしている。

 一連の経緯の中で、県の幹部や職員が「船を決めるのは、金を出す県だ」「県が出資をしたお金で買いますので、税金を使って買うということなんです」と発言している記録もある。

 パナマ社は、国際海運が便宜的にパナマに船籍を置くことを想定し資本金1千ドルで設けた、いわゆるペーパー会社。国際海運とパナマ社の役員3人は同一人物だ。現地に従業員もいない。

<専門家の見方>

 県の説明について、海商法などの専門家からは疑問の声が上がる。

 「外形的・形式的な法律関係を示す図としては正しいが、特にペーパー会社を介した法律関係が意図的に作出されたものという意味では虚構、フィクションと言え、実態を示すものとは言いにくい」。早稲田大法学部の箱井崇史教授は語る。

 県は国際海運の約65%の株を押さえる大株主で、他の出資者とは全く異なる。株主総会を通じて国際海運を支配可能であり、知事は"親会社の社長"と同様の立場にある。さらに買船の実務的な面でも、県は検船や売り主との交渉を国際海運と一緒に進めてきている。

 県当局が県民への説明資料としてグラフィック上部のような図を示すことについて、箱井教授は「ペーパー会社は法律上は一応法人であるが、実体がない。さもこれに実体があるかのように説明するのは実質を覆い隠すもので、少なくとも県民に対する説明としては適切でない。パナマ会社はあくまで売買契約上の名義人にすぎないことを示すべきだ」と指摘している。

 こうした学識者と関係者の話、内部資料などを基にした、実質的な関係図はグラフィックの下部となる。

 資料や関係者の話では10月以降、県と国際海運はパナマ社の代理人弁護士と協議を重ねている。国際海運とパナマ社の「一体化」「一体性」につながらないような論陣を張る方向で話し合われたという。パナマ社だけに責任を負わせようとの意図が見え隠れする。

 内情を知る関係者は「県が関与したというより、県が購入、契約、引き取り拒否、仲裁対応などの判断をしてきたという方が正解だ」と証言している。