検証・日本海横断航路問題

船購入問題調査委報告から検証 機能不全 負の連鎖

船購入問題に関する報告書を取りまとめ、記者会見する早川吉尚特別調査委員長=2月3日、県庁

 日本海横断航路計画の中古船購入問題について、経緯や原因を調べてきた県の特別調査委員会(早川吉尚委員長)は、事業失敗の最大の要因を「ガバナンス(内部統制)の欠如」と断じた。3日に公表された報告書や早川委員長の記者会見では、県庁内部や第三セクターの機能不全が「甘い前提」「ずさんな契約」「対処の遅れ」を招き、取り返しのつかない事態に発展したことが浮き彫りになった。約3億円の公金が失われた"負の連鎖"をまとめた。(2017年2月5日 新潟日報掲載)

甘い前提 予算8億円では足りず

 報告書は、船の購入や改造・修繕費を8億円でまかなうとした当初計画の甘さを厳しく突いた。中古船市場は選択肢が限定されるとした上で「冬の日本海において人や貨物を載せて航行するための安全性、定時性(速力)を備えた船舶を8億円で確保すること自体がそもそも困難だった」と指摘した。

 事業費8億円のうち県が3億円、市が2億円、残る3億円を民間が出資する計画だった。県は関連費用を2015年度当初予算に計上し、16年春の運航開始を目指していた。特別調査委の早川委員長は会見で、金銭的な制約に加え、時間的な余裕のなさにも言及し、「どのような有識者に聞いても非常に困難な作業だと言う」と話した。

 そもそも8億円という金額はどこから出てきたのか。報告書は「過去に1件あった同額程度の中古フェリーの売り物が、再びあるだろうとの観測に基づいた」と記載する。かつて日中合弁会社が運航したケースが参考にされた。安全性や定時性の精査、専門家を交えた厳しいダブルチェックはなかった。

 この最初の見込みの甘さは、後にさまざまな事態を引き起こす要因となる。報告書は、選定可能な候補船が極めて限られ、購入前に船を点検する費用を節約せざるを得なくなるといった問題点を列挙した。

ずさんな契約 専門家不在で混乱招く

 船の購入、契約の過程で随所にずさんさが見られた。

 県や第三セクター新潟国際海運の関係者は2015年6月、購入候補の船3隻の検査を韓国で行った。しかし改造・修繕の業者は同行しなかった。後に改造・修繕費が想定を大きく上回ることが判明し、混乱を招いた。

 契約に盛り込まれた「deposit」という文言を、契約を解除することができる「手付金」と勘違いする失態もあった。実際は単なる前払い金の意味合いだったが、手付金を放棄すればいつでも解約できると誤解し、その後のトラブルにつながった。

 船の売買を仲介したブローカーを巡る認識も誤っていた。本県側の関係者は、ブローカーの報酬が売り主側から支払われることを知り、「実は韓国企業のために活動していた背信的な人物」と考えるようになったという。船の速度不足などが判明する中で「問題を抱えた船をつかまされた」との思いを強くした。

 ブローカーへの不信感は「ひいては(船の)受領拒絶の理由の一つになってしまった」。ただ売り主から報酬を受け取るのは海運業界の慣習だった。

 県側の体制は「国際路線の運航を一から実現させるに必要な専門家がそろっていたとは到底言えない」のが実態だった。

対処の遅れ 消極姿勢響き損失拡大

 事業頓挫の最大の原因とされた「ガバナンスの欠如」は各組織の意思疎通不足、対処の遅れを生み、損失拡大につながった。「さまざまな局面で情報伝達の齟齬(そご)や遅延が見受けられ、それが混乱に拍車をかけた」「悪い情報こそトップに速やかに伝達されなければならない」。報告書には厳しい文言がいくつも並んだ。

 船購入の売買契約が結ばれたのは2015年8月26日だったが、情報は森邦雄前副知事のもとに留め置かれた。泉田裕彦前知事に伝えられたのは約1カ月後だった。報告書は「風通しの悪さを指摘せざるを得ない」と批判した。

 泉田前知事は、契約締結が事後報告だったことを殊更に強調した。しかし報告書は、契約締結直前の24日に泉田前知事へのレク(説明)があり、その場で契約目前であるとの報告を受けた上で、3億円の出資を了承したことを認定した。

 早川委員長は「計画が進む過程で知事にはいろいろな形で報告がされている。一部を知らなかったからといって責任を免れることはもちろんない」と述べた。

 泉田前知事は海事仲裁機関による判断が出ても「民間の取引」と主張し、事態打開に消極的だった。最終的に米山隆一新知事が収拾を図ったが、出資金のほとんどが失われた。

 早川委員長は「(仲裁手続きが進む)第一段階で手を打った方が良かった。(損害)額も少なかったと思う」との見解を示した。

調査委員長会見主なやりとり

 日本海横断航路計画の船購入問題に関する調査報告書をまとめた早川吉尚特別調査委員長の3日の記者会見では、「ガバナンス(内部統制)の欠如」を招いた責任が誰にあるかについて質疑が集中した。主なやりとりは次の通り。

-報告書によると、泉田裕彦前知事への契約の報告が遅れている。知事には重要な局面の出来事が知らされていなかったのか。

 「一連の経緯の中で、改装費が高くなったということが分かった事実と、その前日に契約が結ばれたという事実が1カ月間、報告がなかったというだけ。しかしそれまでの過程で知事にはいろいろな形で報告がされている。全く知らなかったということはあり得ない。ここだけを知らなかったからといって、知事の計画全体についての責任が免れることはもちろんない」

 「一番の問題はガバナンスの欠如。ガバナンスについて責任を持つのは当然ながらガバナー、つまり知事であり、またこの事業を直接けん引した(森邦雄)副知事だ」

-前知事は契約直前の2015年8月24日のレク(説明)で出資を了承したとある。前知事は3億円の出資金が船の購入に使われるという認識があったのか。

 「それは当然そうだ。このスキーム自体が最初からそう。(第三セクターの)新潟国際海運はお金を持っていない。出資金しか船を買うお金はない」

-前知事は在任中にそのような説明をしていなかった。

 「物事を形式的に説明するか、実質的に説明するかの違いだ。形式的に説明するなら出資金は出資金であり、出資されたお金をどのように使うかは出資された会社がやるものだと。その説明自体にうそはない。ただ実質は、その出資金を使って船を買うプロジェクト。その時の立場で、説明の仕方をうまくやろうと思われたのだろう」

 -ガバナンスの最高責任者である前知事に最も重い責任があるという判断か。

 「そう。ただ事業自体を現実にけん引したのは副知事だ。知事には副知事の監督も含めて責任があるし、副知事にも責任がある」

 「県職員は命令されたことに真剣に取り組んでいた。まじめに取り組むほど、方向を間違えるとどんどん違う山を登っていく。そういうことが起きていた。下で頑張っている人が個人として責めを負わされるというのは、耐え難い」

-知事、副知事の処分についてはどう考えるか。

 「監督者だから、必ず責任は伴う。ただ処分は法律上はできない。個人賠償責任を追及するようなものはない。責任を持って辞めてもらうというのが通常だが、もう辞めているので、それ以上はできない」

-この問題を巡る一連の報道についてはどうみているか。

 「報道が連日なされたことは確かだが、報道自体が何かの意図を持ってなされたということではない。(知事選の)選挙戦に利用されたということ。選挙戦は総力戦だから、いろんなものがいろんな形で使われる。報道に対して県が抗議したり、またそれに(報道側が)反論したりということもあって、通常よりもヒートアップした状態があった。政治的に利用しやすい状態にあったのではないか」

 「地元紙が食い下がることがなければ今回、こういう形で検証をしっかりしようという話にはならなかった。この事件はいろんな陰謀説が流れている。それがあったかなかったかを、一つ一つ証拠に基づいて事実認定するのもわれわれの仕事だ。証拠としてそういうものを見つけることはできなかった」

<中古船購入問題> 2015年8月に県の三セク「新潟国際海運」がパナマにある子会社名義でフェリー購入契約を韓国企業と結んだが、速度不足などを理由に船の引き取りを拒否し紛争に。海事仲裁判断で本県側に約1億6千万円の支払いが命じられたが履行されなかったため、韓国企業が損害賠償を求めて三セクを提訴した。16年10月に就任した米山隆一知事が解決を図り、12月に三セクが約1億1500万円を支払って和解した。県が船購入のため三セクに出資した3億円のほぼ全額が一連の紛争対応などで失われた。