「新潟県を元気にしたい」提言

【地域部門】最優秀賞「新潟日報大賞」
『未来のために今、私たちができること。実際のまちづくり現場からの提言。』

テラスオフィス

 ひと昔前は青果中心の市(いち)が立ち、人とモノが行き交い活気にあふれていたものの、高齢化や郊外化で徐々に衰退し寂れ、シャッター通りとなってしまった場所 「沼垂(ぬったり)市場通り」。自らが生まれ育った町でもある沼垂に「にぎわいを取り戻す」ことを使命として、姉弟で小さな会社を興し、現在「まちづくり」を行っている現場より、町の活性化に携わりながら、見いだした「生の声」を提言としてまとめました。

 私たちが考える地域の未来は、ゆったりとした時間が流れ、ノスタルジックで人情に満ちあふれた、忘れがたき"過去"の姿とリンクします。一見それはハイテクで便利な近未来の姿とは真逆かもしれません。しかし、人間の本質を考えたとき、人は"ふれあい"を求め、そのふれあいの中に、生きがいや安らぎ、居場所を見つけるのではないかと思っています。
その土地と、そこに住む人のエネルギーは、今も昔も、また未来も変わらないはずです。
そのエネルギーをどうやって引き出すか、を考えてみました。

 まずは今、私たちの地域で実際起こっていることを説明します。

 かつては青果を中心とした市(いち)が200メートル程の長屋にズラリと並び、多くの人とモノが行き交い、エネルギーに満ちていた場所。しかし近年の高齢化や郊外化の影響により寂れてしまった町、沼垂(ぬったり)の寺町市場通りエリア。周辺には空き家や空き店舗も多く、高齢化率の高いこの町に、「地元の人たちがちょっと便利に買い物できるお店を作ってみよう!」、はじめはそんな小さな試みでした。

 最初にできたのはソフトクリームと手作り惣菜の店、2010(平成22)年のことでした。その1年後の2011(平成23)年にカフェが、またその1年後の2012(平成24)年に陶芸工房ができ、メディアやインターネットなどにより注目を浴び、来街者が少しずつ増えたことが、この地域を大きく変化させるきっかけとなりました。この時は1年に1店舗ができるという、とてもゆっくりとした流れでしたが、町の風景やこの場所を訪れる人たちが、少しずつ、しかし確実に変わっていく様子を肌で感じとれました。

 3店舗ができたことが契機となり、その後、私たちはこの地で「まちづくり・まちの活性化」を目的とした小さな会社を興し、新たな商店街を誕生させることを本格的に着手します。実際、2015(平成27)年4月に、店舗や工房、オフィスなどが約30軒揃い、新商店街「沼垂テラス商店街」をスタートさせたことは、地元のみならず、新潟市内、そして県内へ、少しずつその名と取り組みが知られるようになりました。最近では「沼垂テラス(ぬったりてらす)」・「沼垂テラス商店街」というワードが徐々に全国にも広がり、県外から、また海外からのお客さま、また視察団体の来訪が増え、注目を集めつつあります。

(年表「出店の流れ」は別紙【参照1】)

 「商店街を誕生させる」・・・何もかもが手探りで、リスクを背負った、ある意味無謀とも言えるチャレンジ。不安もありましたが、やると決めた以上、後戻りはできません。資金調達のための金融機関との交渉、入居者(出店者)の調整、地域の人たちへの説明・協力要請、広報活動、イベントの実施・・・とにかく必死に取り組みました。もちろんそれは、自分たちの努力だけでは成し得ることではなく、関わってくださる方の理解と協力があって、今があります。新商店街誕生から丸3年が経ち、まだまだ発展途上で課題も抱えていますが、町づくりのひとつのカタチとして、実績を少しずつ積み重ねつつあるのではないか、と思っています。

 それぞれの店を小さな点に例えると、その点がひとつの場所(商店街)に集まり、連携する、それが大きな発信力につながり、想像以上の相乗効果を生み出しました。今では商店街の域を越え、「沼垂テラス・エフ」と名付けたサテライト店が周辺にでき、またそれだけに限らず、沼垂エリアにある企業や店舗が少しずつ連携していくことで、地域内における点が線で結ばれ、「沼垂」にムーブメントが起きていることを実感しています。

 それに加えて特記すべきは、この場所には独特なコミュニティーが形成され始めているという点です。この商店街の店主たちは30~40代が中心層で、また工房などを営むクリエイターが多く、その感性に惹かれて足を運ぶ人たちが集まってきます。彼らは、発想も豊かで柔軟性があり、また各店同士、何か楽しいこと、面白いことを一緒にやろうという連携意識も高く、それがこの地域でイベントやワークショップ、企画展、ライブなどを開催するということに繋がっています。そういった連帯感や一体感というのは、"絆"を生み、店主同士、また店主と顧客の結びつきを強め、それぞれの居場所を確立し、このエリアの独特な雰囲気=地域ブランドと言うべきものを形成しているとも言えます。

 そもそも、何がこの「変化」を導いたのか・・・それは目先のことだけにとらわれない、未来を見据えた「ふるさと」を想う気持ちに他なりません。ここに居を構えて住んでいく以上、この地で仕事をしていく以上、私たちはここを離れることはできません。少子高齢化が進み、もし何もしなければ、いずれ時間とともに人口は減少し、町は衰退してしまいます。

 それを何も行動を起こさず見過ごすよりも、それならば自分たちの住み良い町、便利な町、自分たちが楽しんで生活していける町、未来に繋げられる町、そんな町づくりができないものか...それが私たちのアクションの根底にあります。

 まだまだ未完成で現在進行形の商店街ではありますが、私たちが微力ながらも、町づくりや町の活性化に携わり、その現場経験から導き出した「新潟県を元気にする」提言が以下になります。

■その町を思う「人」、旗振り役の存在とその人(キーマン)の熱量が必要。
「人」が一番大事。ひたむき且つ誠実に、熱い気持ちで行動を起こせば、すぐには伝わらなくても、徐々に周囲に理解され、目を向けてもらえ、人を動かすことに繋がる。

■今あるモノや風景を大切にする、活かす。
新たなモノや風景を生み出すのもひとつの方法だが、今あるモノや風景の価値を再認識すること、その価値を引き出すこと、少し手を加え、価値を押し上げること。
寂れてしまった場所も見方を変えれば、魅力的な場所として打ち出すことができる。
キーワードは「ノスタルジック」や「レトロ」。郷愁をそそるモノや風景は、地域の宝になりうる。

■コンセプトを決め、掲げる。
こんな町を作りたい、どんな業種をラインナップするか、この町にはどういう店が必要か、どんな人たちに来てほしいのか...町をイメージし、雰囲気を思い描く。それらをコンセプトに結び付け、それをベースに町をつくっていく。指針をしっかり掲げる。


(沼垂テラス商店街におけるコンセプト)

■発信を怠らない。
いいモノ、価値あるモノをアピールしない手はない。積極的な「発信」が重要。広報活動、プロモーションを怠らない。無理にお金をかけなくとも、手段はある。SNSなどを駆使する。メディアからの取材依頼は絶好のチャンスと捉え積極的に応じる。


(沼垂テラス商店街が発信しているSNSツール

■意識を高く、自立が基本。
「まちづくり」というと行政からの補助金の活用もひとつの手段であるが、それはあくまでも補助的、補完的に捉える。それに頼りすぎると、そもそもの目的や自分の意思、やり方、スケジュール感を見失いかねない。基本は自立。自立してやっていけるかが長く継続していけるかのカギと言える。
行政は良き相談相手としてミカタにつけ、良好な関係を保つ。補助金以外のこともたくさんアドバイスをくれるし、時に助けてくれる。まちを元気にしようと頑張って活動していると目を向け認めてくれる。

■スピード感を重視、タイミングを逃さない。
人を集め組織化すると、多くの意見が出て、見地が拡がるが、一方で物事が決まらず、実行が遅れ、タイミングを逃すこともある。なにをやるにもベストなタイミングがあり、商機を逃さず決断し、スピード感をもって実行してみる。もし失敗したとしても、無駄にはならない。軌道修正すればよい。失敗は恐れない。

■地元と繋がる。地域と連携する。
地域を元気にするには、その地域にいる人に理解と協力をいただき、時には動いていただかなくてはならないこともある。そのための信頼関係づくりやコミュニケーションは重要。
また地域の歴史・文化・景観など、地元の人にとったら普段は当たり前で意識しないものでも、その価値を再認識してもらい、価値を共有することで、連帯感が生まれる。
また地元の学校と連携することで、町づくり活動を知っていただくことが、理解を深めることに繋がる。子どもたちに町に興味をもってもらい、時に活動に参加してもらう。それが、町の未来の大いなるPRに結びつく。すぐでなくても、必ず未来に繋がると信じる。
自分たちがそうであったように、地元の子どもたちが成長し大人になったとき、自分の生まれ育ったまちが、自慢できる場所であってほしい。ふるさとが好きで、ずっと暮らし続けたい町であってほしいという願いを込めて、次世代とのつながりを大切にする。

■「個」のチカラが原点、ただし「集まること」のチカラは大きく強い。
商店街だから、たくさんお店が集まっているから、路面店で一人勝負するより心強い...、その通りだが、だからと言って甘んじてはいけない。やはり基本は個店個店の工夫や努力。ただし、その個店の努力が相まること、「集まる」ことが、思いがけない相乗効果を及ぼす。「集まること」のメリットは大きく強い。

■小さなきっかけや出来事、取り組みが、大きなムーブメントに繋がることがある。
景観・ヒト・モノ・雰囲気...、何が顧客の心に響くかはわからない。もし、誰かに何かが少しでも響いたとして、それが思いがけない広がりを見せることもある。だからこそ、いろんな仕掛けや工夫を重ねるべきである。

 最後に事例を一つ挙げます。2016(平成28)年12月に、当商店街のサテライト店舗として近隣にオープンしたゲストハウス。沼垂地域にこの宿泊施設がオープンしたことは、さらに沼垂エリアを大きく変えてくれました。これがまさに私たちが考える、理想的な"未来の町の姿"と言えます。その効果は以下のとおりです。

・観光客の増加。インバウンド促進。
・雇用の創出。移住者・定住者促進。
・周辺店舗利用による経済効果。活性化。
・発信・行動の拠点として、近隣エリアにも波及。
・イベント開催での地域とのつながり、周辺各店とのコラボレーション企画による集客。
・エリア認知度のUP。
・地域ブランドの更なる向上。

 このような変化が起きていることは、この地域に集まったそれぞれのチカラの集積、努力と工夫の賜物に他なりません。今、私たちができること、やるべきこと、役割は、その個々の力を引き出すお手伝いをすること、繋げること、広報的支援などで後押しすることになりますが、その地道なアクションが私たちの理想とする未来、"人と人とのふれあいに満ちた居心地の良い場所"の形成に結びついたら、嬉しく思います。