
7月16日、中越沖地震によって東京電力柏崎刈羽原発で動いていた原子炉がすべて止まった。設計時の想定を大幅に上回る激しい揺れに襲われ、広範囲な被害やトラブルが続発。「安全神話」が大きく揺らいだ。世界最大の原発集積地で起きた非常事態は何を意味するのか。深く検証し、断層が走る地震国・日本の「原発」を考えたい。まず、原発構内にいた東電社員をはじめとする関係者の証言を基に、「7・16」激震の日を再現する。
中越沖地震発生直後の7月16日午前11時前、川崎市内。東京電力取締役副社長・武黒一郎(61)は自宅でニュースを聞いた。2年前の宮城県沖地震で起きた事態が脳裏をよぎった。
2005年8月、この地震によって東北電力女川原発の全3基の原子炉が緊急停止した。すべての運転再開に要した期間は約2年。柏崎刈羽原発で動いていた全号機の原子炉緊急停止が告げる意味が重くのしかかった。「女川の状況に似ている。運転停止は長期化するな」
タクシーをつかまえ、東京・千代田区の東電本店に正午前に到着、2階の非常災害対策室に急いだ。かつて同原発の所長を務め、現在は原子力業務全般を取り仕切る。300人を収容できる対策室の幹部用円卓に着くと、原子炉を冷却する電源の確保状況や、地震の揺れの強さを示す加速度データの集約を指示した。
首都圏への電力供給を担う柏崎刈羽原発の全号機停止は、国内最大の電力消費地・東京を中心とする東電の供給計画を大きく狂わせる。まして夏場の消費電力がピークを迎える時期だ。
円卓では原発停止による不足を補うため、火力発電所の稼働率アップや、同業他社からの融通など供給確保策の検討を進めた。本店は次々と押し寄せる原子力関係以外の情報処理にも追われていった。
<異例の首相視察>
政府は地震発生を受け直ちに首相官邸に対策室を設置。国の危機管理対策の中枢に中央関係省庁の局長級らが駆け付けた。3号機の変圧器火災の映像を見た幹部が声を上げた。「なぜ消しに行かないのか」
官邸に近い霞が関の経済産業省原子力安全・保安院。原子力事故故障対策・防災広報室長の森田深(41)は原子炉の安全確認に専念していた。だが、上層部は火災の原因調査を最優先する姿勢に傾いた。
「もう鎮火している。炉の安全には直接影響はないのだが」。そんな疑問をのみ込み、森田は火災原因の情報収集にも時間を割いていった。
一方、東電本店の対策室に国から思わぬ連絡が入った。首相・安倍晋三が急きょ原発に入る、との知らせだった。
現地の原発構内では原子炉の安全確保や点検に職員が忙殺されていた。国の最高責任者が被災直後の原発を訪れるという異例の展開に、武黒は「混乱している現場が対応できるだろうか」と心配した。
地震は参院選のさなかに起きた。長崎市内の街頭にいた安倍は一報を聞いて演説を切り上げ、被災地に向かった。原発への到着は当日午後5時すぎ。10分程度、状況説明を受けた。
<異常事態に覚悟>
首相対応を無事終えたのもつかの間、原発内では、放射性物質を含む水が日本海に流出していたことが判明した。「原子炉が止まる異常事態に加え、火災、放射能漏れと3点セットになると、世の中の受け止め方は厳しいだろう」。武黒は覚悟した。
保安院は火災対応や放射能漏れの報告遅れを問題視。経産相の甘利明(57)は東電社長の勝俣恒久(67)を呼び出し、原因究明を指示した。東電に対する不信感が高まった。
中越沖地震によって全7基が発電できない状態に陥った世界最大の原発基地。地震を引き起こした断層が原発直下に延びている可能性も浮上した。詳細な点検の終了見通しすら立たないのが現状だ。地震国・日本で原発施設の安全性をいかに高め、立地地域の不安をどう解消していくのか。
東電と国や県には、国内だけでなく世界に向けた情報公開と説明責任が求められている。
(文中敬称略)
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