腎不全・腎移植 血液型不一致でも可能
免疫抑制技術が確立 透析より「生活の質」改善
新潟大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器病態学・高橋公太教授
高橋公太教授
<たかはし・こうた> 1948年湯沢町生まれ。新潟大学医学部卒。東京女子医大助教授を経て、95年から現職。日本臨床腎移植学会理事長、日本腎臓財団評議員、日本腎臓学会理事など。
血中の老廃物をこして体外に排出し、体の水分量を調整し、体液中の成分が一定に保持されるようにするなど重要な働きをしている腎臓。その機能が著しく低下した状態が腎不全だ。そうなると人工透析が不可欠となり、根本的な治療方法は腎移植となる。腎移植は亡くなった人からの献腎か、親族間の生体腎のいずれかで行われるが、生体腎では血液型が異なる人同士でも移植を可能にする技術が確立されている。移植医療のパイオニアである新潟大学大学院医歯学総合研究科の高橋公太教授=腎泌尿器病態学=らに、腎疾患の原因、治療、移植医療の現状などを聞いた。
腎臓には、ろ過器の働きをする糸球体があり、血液中の老廃物や水分をこして原尿をつくっている。この糸球体の働きが弱るのが慢性腎臓病(CKD)で、病状などに応じ5段階に分類されている。健康な人に比べ腎臓の働きが著しく低下すると腎不全で、進行の度合いに応じて体のむくみやだるさ、高血圧、心不全などの症状が現れる。
高橋教授は「初期の段階では無症状のことも多い。早めに異常が分かれば、治療もその分早く始められる。腎臓機能を温存することで心機能の維持もできる。健康診断などで尿検査を受け異常があれば放置しないこと」と、定期的検査の重要性を説く。
CKDになる原因のトップは糖尿病。糸球体の毛細血管にダメージを与えるため、腎臓への負担が増えるからだ。2番目に多いのが慢性糸球体腎炎で、この二つで腎臓病全体の約3分の2を占める。
CKDの初期には薬と食事療法がとられる。腎機能の保全効果もあるので降圧剤を使って血圧を正常の範囲で保つとともに、タンパク尿がある場合はタンパク質の摂取量を減らすよう食事を調整し、腎臓への負担が軽くなるようにするのが一般的な方法だ。塩分や水分も、進行の度合いに応じ摂取量を控える。
それでも一度失った腎機能は取り戻すことができない。病状が進行し腎不全となれば、老廃物の体内への蓄積を防ぐための人工透析となる。透析患者は全国では年間約1万人のペースで増え続けており、現在約30万人。本県の透析患者数は4600人程度だ。週3回通院し、1回につき4時間かけ透析する。
ただし「人工透析はあくまで対症療法。健康な人の腎臓は休みなく働いているので、12時間の透析で百パーセント機能を代替することはできない」と言う。さらに「子どもの場合は透析になると、成長・発育が望めず、低身長、腎性くる病、背骨の湾曲などに直面する」。
一般的に透析年数が長くなると、透析では除去し切れないタンパク質が骨などに沈着して起こる透析アミロイド症などの痛みに悩まされることにもなる。こうした問題を解消するための根本的治療方法は、腎移植以外にない。国内初の腎移植は1956年に新大で実施されており、移植医療の先駆けとなった。
「QOL(生活の質)の改善からも、透析に入った後はできるだけ早く腎移植が受けられるほうが良い」と高橋教授は強調する。腎移植は全国で年間1200例以上あり、うち8割以上を親族らが提供する生体腎移植が占めている。亡くなった人からの献腎は年間200例にも満たず、移植希望者のリストに登録されてから献腎移植を受けるまでの平均待機年数が、十数年という状態が続いている。
移植後は拒絶反応が起こりやすく、免疫抑制剤が欠かせない。この抑制剤の改良や医学全体の進歩で、かつては不可能だったABO血液型不一致間の生体腎移植が可能になっている。
国内初の不一致間生体腎移植を成功させたのが高橋教授で、それからちょうど21年がたった。生体腎移植数が増加しているのはこの技術の確立が大きい。拒絶反応が起こる仕組みの解明に取り組んだことで、「近年では適合でも不適合でも遜色(そんしょく)のない成功率を収めている」。2000年に入ってからは、手術後5年を経過した時点で、移植腎が機能しているかどうかを示す生着率はいずれも9割を超えている。
血液の状態は患者一人一人違うため、それをきめ細かに管理し、最適な抑制剤の組み合わせや量を決め「オーダーメードの医療」を目指すようになっている。これが不適合間移植の高い成功率を支えている。
腎臓で先行、確立された技術は肝臓などほかの臓器の移植にも応用されており、「新潟発の世界に貢献できる技術」にまでなっている。
献腎を増やすために 生前に意思表示を 市民と医師の協力不可欠
腎不全治療の最大の課題は献腎をいかに増やすかにある。腎移植手術で執刀してきた新大大学院の斎藤和英講師は、県移植コーディネーターの秋山政人さんとともに、献腎への理解と協力が進むよう活動している。
斎藤講師は「生体腎移植はやむを得ずの方法と理解してほしい」と言う。健康なら二つある腎臓のうち一つを提供しても日常生活に支障はないが、提供後に提供者自身が腎臓病になってしまうというリスクがゼロではないからだ。
献腎を増やすには医療機関と一般市民の両方の協力が必要。救急外来や脳外科などをはじめドナー(提供者)となり得る人が治療を受けた病院で、臨終にかかわった医師の役割が大きい。家族感情に配慮しながら、提供意思の有無を聞けるようにしていくことが提供を増やす第一歩だ。
最近では「提供できれば亡くなった本人が喜ぶから」と家族のほうから申し出るケースも出てきた。「死を語ることが日本社会ではタブー視されてきたきらいが強いが、いざという時どうしてほしいかを話しておくと、意思が生かされやすくなる」という。親類の反対で提供しにくくなるケースにもこれは有効だ。
7月には腎臓をはじめ臓器提供をさらに促すため、改正臓器移植法が施行される。カードなどで生前に本人の意思表示がなくても、家族が同意すれば提供が可能になるのが最大の変更点だ。
腎移植が成功し透析がやめられると、味覚の改善や食事制限の緩和、のどの渇きの解消など、患者は劇的変化を実感できるという。あきらめていた出産がかなった人もいる。フルタイムの勤務に戻れた人も多い。
「臓器提供は尊い行為で、素晴らしいことをしたんだねと社会全体の空気が変わることが大切。移植を受けた人の活躍の場が広がり、国の医療費負担も減り、社会的に大きなプラスがあることを知ってほしい」と強調する。
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