モニターに映る異常に、職員はわが目を疑ったことだろう。3月10日はゴロ合わせで「佐渡の日」だった。春の息吹を潮風に感じ始める時季だ。そんな日に悲しすぎる話だ▼きのう、秋の放鳥へ向け、佐渡トキ保護センターの順化ケージで訓練中のトキ11羽のうち、9羽が死んだ。ケージに侵入したイタチか何かの小動物に襲われたようだ▼1981年、島に残る野生トキ5羽を捕らえた。飼育中のキンと一緒に、わずか6羽から人工増殖の苦労を重ねたが、実らなかった。だからトキ1羽の命の重さは、何物にも替え難いと、保護関係者は骨身に染みている。99年に中国のつがいを迎え、100羽を超すまで増やしても、東京や石川などに分散できるまでになっても、「9羽死亡」は衝撃だ▼昨年、上越市と新潟市に渡ったトキを見た。何十人もが遠巻きにしてカメラを向ける。トキは怖がる様子もなく田んぼをつつき、時には人々の頭上で旋回し、淡いトキ色も披露した。あまりの無防備さに、野生動物や猛吹雪の怖さを知っているのかと、少し心配になったことを思い出す▼ここ2、3年、本紙佐渡版の歌壇には、トキを詠んだ句や短歌が急増している。「朱鷺(とき)色に佐渡を染めたる初日かな」(金子みのる)「朱鷺の舞う冬の棚田を古希守る」(渡辺寅男)。島民の気持ちを表したものだろう▼8日にはセンターで産卵が始まった。「初春の朱鷺の近況待ち至り今年こそはと雛(ひな)を待つなり」(高橋アサ子)。放鳥トキの二世誕生を待ちつつ、野生復帰の険しい道のりを思う。