太平洋戦争中の食べ物を取材して描いた魚乃目三太さんの漫画「戦争めし」は2015年から毎年夏に1巻ずつ発行され先ごろ7巻が出た

▼ある男性は、戦友が言い残した「おでんが食べたい」という言葉が耳を離れず、70年間おでんを口にできなかった。別の男性は軍艦が沈没し、6日間漂流した。救助された後、湯飲みに入った牛乳が配られた。90歳を過ぎても牛乳は湯飲みで飲むという

▼6巻にはマレーシアに従軍した東京のすし職人、小林正夫さんの話がある。隊長から士気を上げるため腕を振るうよう命じられたが、魚もノリもない。困った末にキャベツの葉で巻きずしを作ることにした

▼葉っぱが硬くうまく巻けない。ゆでても駄目だったが、焼いたらちょうどいい軟らかさになった。香ばしい焦げ目を、腹をすかした兵士たちはノリのようだと思ったという

▼小林さんは戦後、故郷の十日町市に松乃寿司を開店した。食糧難の時代にキャベツ巻きは結婚式の祝いの席になくてはならない一品となった。小林さんは1983年に77歳で亡くなり、現在は孫の文彦さん(56)が後を継ぐ。卵焼き、キュウリ、かんぴょうをくるんだ巻き物は要予約の看板料理だ。切り口は色鮮やか、歯ごたえが心地よかった。3代目は「祖父が生きた証しを、これからも残していきたい」と語る

▼新型ウイルスに加え、猛暑と豪雨が交錯する。東京五輪に甲子園が続き、総選挙が近づく。落ち着かない8月だけれど、見詰めなければならない歴史がある。