東京からUターンし、釣り情報アプリの開発を進める「SIIG」の谷川奨さん(上)と、起業家の相談に応じるスナップ新潟の逸見覚社長(下の左端)
東京からUターンし、釣り情報アプリの開発を進める「SIIG」の谷川奨さん(上)と、起業家の相談に応じるスナップ新潟の逸見覚社長(下の左端)

 開業率が全国最低レベルに沈む本県。だが近年、人材を育て、起業の好循環を促そうと産学官を挙げた取り組みが活発になっている。起業を目指す人と支援者をつなぐ拠点の整備が進み、事業拡大へとアクセルを踏む若手経営者もいる。新型コロナウイルス禍で芽生えた地方回帰の流れを本物にできるのか。起業を取り巻く動きを2回に分けて追う。

 「いま新潟に飛び込めば、チャンスをつかめる」。谷川奨さん(30)=新潟市中央区=は5月、そんな思いで東京からUターンした。

 フリーランスで始めたウェブ制作に本腰を入れようと、2016年にアプリ開発会社「SIIG(シーグ)」を創業。東京を拠点にIT大手の業務を請け負いつつ、アプリ開発の分野で新たに事業を興そうとプランを練ってきた。

 しかし、東京は資金を供給するファンドや大企業が多い半面、ライバルも数え切れない。

 転機は昨年、県内発の起業や第二創業を後押しする「新潟ベンチャー協会(NVA)」の設立だ。スノーピーク、トップカルチャー、NSGグループ…。東証1部上場を含む県内企業のトップらが役員に名を連ね、有望な起業家の発掘を目的にイベントを開くことを会員制交流サイト(SNS)で知った。

 「父もそうだったが、釣り人は釣果を語り、自慢がしたい。その熱量を共有できるサービスを作ろう」と、釣り情報アプリの提案で挑戦することを決めた。

 当日は、スマートフォンのカメラ機能を使った釣果の共有や、釣り具通販サイトと連携した収益化への展望などを熱く語った。アイデアはNVA会員たちに高く評価され、事業をてこ入れする優秀者の座を勝ち取った。谷川さんは「東京だったら、著名な経営者との縁や資金は得られなかった」と感じている。

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 東京商工リサーチ新潟支店によると、本県の2020年の新設法人率は全国46位の2・60%にとどまる。そんな流れを変えようと奮闘する人々がいる。

 3棟のビルにかつてファッションや飲食などの商業テナントが入居したJR新潟駅南口の複合施設「プラーカ」(新潟市中央区)。ベンチャー企業などへの融資を行う新潟ベンチャーキャピタルが入居し、昨年は県内外のIT関連企業がオフィスを構えるイノベーション拠点施設「ニーノ」が完成した。

 「あの人につないでみよう」。プラーカの一角で起業支援拠点「スナップ」を運営するスナップ新潟(同)の逸見覚社長(47)が語る先に、新潟大4年の冨田翼空(たすく)さん(22)がいた。

 冨田さんは、テント型サウナの関連商品やイベントを企画する会社「ハブサウナ」(同市中央区)を3月に設立したばかり。週に1、2度はスナップを訪れ、逸見社長にあれこれ相談している。

 事業を思い付いたのも、紹介された経営者たちと交流し、サウナ愛好家が多いと気付いたからだ。「安全性の高い国産を求める声は強い」と商品開発に向けて準備中だ。

 逸見社長は地域FM局「けんと放送」の社長を務め、貸会議室の運営も手掛けてきた。起業家と同じ目線になろうと、19年9月にスナップ新潟を設立。冨田さんを含め20人以上の起業に携わった。「起業は1人だと心が折れる。目標となる先輩経営者や刺激し合える相手とつながる場所が必要だ」と意義を強調する。

 先輩経営者や投資家が継続的に助言や指導をするほか、利用者が事業構想や日々の活動を書き込めるオンライン上のサロンも運営する。サロンには現在、起業希望者ら約140人の利用者と、IT系ベンチャー企業や会計事務所など60人の支援者が登録。独自のコインスタンプ制度を取り入れ、支援者は良いと思った書き込みにスタンプを送る。

 利用者は獲得したスタンプ数に応じ、コワーキングスペースの利用券などと交換できる仕組みだ。逸見社長は「支援者も優秀な若者との接点や自社の課題解決にメリットを感じられるように仕組みを充実させたい」と今後について語る。

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