古代エジプトの古文書には下半身まひについて記されたものがあるという。各種のけがや病気の対処法が詳しく書かれているが、脊髄損傷については一言「治療法はない」とあるだけだった

▼その後も医学界ではこんな認識が長く続いた。ベッドから動けない患者は、床ずれから細菌に感染するなどして命を落とすことが多かった。1930年代にナチスの迫害を逃れ英国に渡った医師ルートヴィヒ・グットマンは、この難題に取り組んだ

▼患者の体位を頻繁に変える床ずれ防止をはじめとした感染対策を講じると、生存率はぐっと上がった。さらにグットマンは車いすに乗れるようになった患者に、生活の質が高まるようにスポーツを勧めた。後に彼は「パラリンピックの父」と呼ばれるようになる(福音館書店「パラリンピックは世界をかえる」)

▼障害者スポーツの祭典はきょう、東京で開会式を迎える。ウイルス禍は五輪開催時より、さらに厳しい状況だ。参加者の中には、健常者に比べて感染時の重症化リスクが高い人もいるだろう。厳重な対策が求められる

▼人間は普段、潜在能力の一部しか発揮していない-。そう言われることがある。パラアスリートは競技上のハンディを補うため、特定の部位を徹底的に強化したり、身体や感覚の使い方を独自に工夫したりする。その姿は眠っていた能力を呼び起こそうとしているようだ

▼あすからの競技では、人間の潜在能力をとことん見せてくれるはず。グットマン医師も見守っている。