「報酬はスイス銀行の口座に振り込んでおいてくれ」「俺の背後に立つな」。超人的な射撃術のダークヒーローが口にするせりふに、心を躍らされた人も多いだろう。謎のスナイパー(狙撃手)のデューク東郷を描く「ゴルゴ13」の単行本が201巻に達した

▼1968年から連載が始まり54年目。ギネス世界記録に認定されたという。世界情勢を動かす一撃を放ち続ける東郷は多くのファンの心も撃ち抜いてきた

▼その人気にあやかろうということか。東京の新型ウイルスワクチン大規模接種会場に設置された看板に、東郷が登場した。「Kからの依頼」と題した漫画で「一肌脱いだ」東郷が注射を受け、接種を呼び掛ける内容だ

▼依頼人Kは河野太郎担当相を指すらしい。大臣は「看板と一緒に写真を撮り、同じ世代に接種を広めてもらいたい」と訴えた。ところが、肝心のワクチン不足は依然解消されていない。若年層には、思うように打てない不満と焦りが広がっている

▼「災害レベル」とされる今回の感染拡大は本県も例外ではない。感染者数は高止まりし、医療従事者は疲労困憊(こんぱい)である。自宅療養者も急増している。飲食店への時短営業の要請は拡大、延長された。子どもたちの感染増も気がかりだ

▼「安全安心のため」という決まり文句を何度聞いたか。聞きたいのはヒーローのような決めぜりふではない。官僚の書いた原稿の棒読みでもない。分かりやすく心に響く言葉だ。この国のトップに求めるのは無理な“依頼”なのか。