「人が喜ぶこと、人が嫌がることは何かを常に考える」。燕市の社会福祉法人つばめ福祉会の高橋是司(せいじ)専務理事(59)は福祉の専門職に必要な視点をこう話す

▼高齢者介護の現場で40年近い経験を持ち、さまざまな介護団体の長も務めた。そんな高橋さんでさえ、最初は仕事を続けられるのか悩んだという。都内の大学を出て就職し、高齢者施設で研修が始まると、まず臭いに悩まされた。玄関をくぐると、加齢臭などが入り交じった空気で気分が悪くなった。昨今の施設では寝食分離だが、当時はベッドで食事を取った。その環境にも衝撃を受けた

▼もう無理。ある日、祖母に愚痴を言った。幼い頃から面倒を見てくれた優しいばあちゃん。「年取ると、何でもかんでも心配で不安でしょうがねえんだ。だから年寄りに親切にしてやってくれや」とつぶやいた

▼この一言で初めて入所者と向き合えた。おやつの時間に菓子を届けると、半分に割って「食べろ」とくれる人がいた。上司に叱られた時、「あんたはいい子なんだっけ、頑張れや」と励ましてくれる人もいた

▼入所者は特別な人じゃない、うちのばあちゃんと同じだと気付いた。この人たちを喜ばそう。本気になった。介護福祉士試験に一発で合格し、福祉の知識と技術を学び続け、介護の場の環境を改善してきた

▼その歩みを聞き、介護職は介護される人に育てられるのだと感じた。だが、育つ前に職場を去る人もいるという。ばあちゃんの一言のような背を押す何かがあるといい。