原子力規制庁の担当者に核物質防護の不備に関する報告書を手渡す東京電力の牧野茂徳原子力・立地本部長(左)=22日、東京・六本木

 新潟県の東京電力柏崎刈羽原発で相次いだテロ対策などの核物質防護体制の不備問題。東電が半年かけてまとめ、22日に公表した報告書で明らかになったのは、核セキュリティーに対する意識の低さという根本的な問題だった。背景には、長年問題視されてきた企業体質に加え、福島第1原発事故後の経営コスト削減の影響も垣間見える。記者会見で経営陣は「(信頼回復の)最後の機会」と覚悟を口にしたが、改善の難しさが際立った。

 報告書では、柏崎刈羽原発で2016年度以降に防犯カメラなどの核防護設備=図参照=の故障が頻発し、復旧に遅れが目立ち始めたことが明らかになった。東電が原因として挙げたのは、設備の保守管理を長年委託してきた業者との間の契約変更だった。

 東電は11年、従来は6年程度で行っていた設備リースの更新を見送った。これをきっかけに、設備の老朽化が進んだ。

 19年以降、設備リースと管理業務を一体で委託してきた業者から設備を買い取り、管理業務のみの委託契約に切り替えた。さらに、現場に常駐する担当者を半減させ、故障があった場合はまとめて直す運用に見直したため、復旧にかかる時間が長期化。最長で337日に及ぶ例もあったと明かした。

 契約変更の発端は、福島事故後の経営状況を踏まえた担当部長の判断だったという。20年度の委託業者への支払額は、15年度と比べ約10分の1に減っていた。

 「安全対策よりコストカットを優先したのではないか」。会見で記者に繰り返し問われた小早川智明社長は「結果としてコストが削減されたが、その観点で(上司が変更を)指示したという調査結果はない」と苦しい釈明に終始した。

 契約変更について、三菱ケミカルホールディングス出身で今夏就任したばかりの小林喜光会長は「大きな契約変更にもかかわらず、社内で情報が共有されていなかったことが驚きだった」と率直に述べた。

 小林氏らが課題として挙げたのは「組織の風通しの悪さ」など、従来から改善に取り組んできたはずの組織体質だった。報告書には経営陣の関与の強化などを再発防止策に書き連ねた。

 失墜した信頼の回復に向けて「今回が最後の機会」と不退転の決意をにじませた小林会長。ただ、記者から再び失態があれば柏崎刈羽原発から撤退する考えがあるのかと問われると、「覚悟を決めてやろうということだ」と言葉を濁した。

◆問われる現場の責任感

 東京電力が22日に公表した核物質防護不備問題の報告書では、テロリストなどの侵入を防ぐセキュリティー対策が原発内部で軽視されていた実態が浮かび上がった。原発を安全に運営するための基礎である核セキュリティーをおろそかにする組織に、原発を運転する資格はない。

 侵入検知設備が故障してもすぐに修理しない。その対応が規制当局に認められていると勝手に解釈する。東電は報告書でこれらの背景に「核物質防護の重要性に理解不足があった」と自ら総括した。

 小早川智明社長は報告書を公表した席で「安全最優先の意識改革をする」と改善を誓った。この言葉が地域住民にどこまで響くか。

 2002年に発覚した原発トラブル隠しをはじめとする数々の不祥事のたびに東電トップから同じ決意が語られてきた。結果として改善はなされていない。

 東電は新たな対策として本社に置いてきた原子力・立地本部を本県に移す方針を示した。発電所の現場と原子力事業の司令塔を一体化して改革に臨む覚悟を示した形だが、果たしてこれが切り札になり得るか。

 福島第1、第2が廃炉となり、青森県の東通原発建設が進まない今、東電が持つ原発は柏崎刈羽だけだ。組織の移転に支障は少なく、場所の変更だけに終わりかねない。

 同時に示した東電幹部の処分も、会長、社長が辞任したトラブル隠しに比べれば甘いものだ。東電が今回の問題を軽く捉えている可能性もある。

 問題の本質は組織体制だけでなく、現場一人一人の責任感にもある。経営層が判断を下すにも、一つ一つの現場が判断を誤れば、失態は防げない。東電は再稼働を急ぐ前に、安全対策の原点を組織全体で問い直す必要がある。

◆「原因分析物足りず」柏崎市長

 東京電力柏崎刈羽原発で相次いだ核物質防護不備問題の報告書について、原発が立地する新潟県柏崎市の桜井雅浩市長は「原因の分析に関して、物足りなさが感じられた」とのコメントを発表した。

 技術的な部門の分析は理解できたとする一方で、「原発を扱う適格性の分析、今回の事案の本当の原因についての考察が甘い。若干の見当違いがあるように思われる」と指摘した。

 刈羽村の品田宏夫村長は取材に対し「東電と原子力規制委員会とのやりとりなので、特にコメントはない。報告書を受けて規制委がどう判断するのかを見守りたい」と話した。

 一方、花角英世知事は22日の定例記者会見で「構造的な部分まで分析し、奥深いところまで検討の目が入ったのかを確認したい」と述べ、同原発の安全性を議論する県技術委員会で内容を確認する考えを示した。