ラストチャンスというと、瀬戸際に追い込まれて乾坤一擲(けんこんいってき)の逆転に挑むイメージが浮かぶ。ドラマチックな要素を含む言葉だから、小説や映画、流行歌の題材としても度々登場する

▼元銀行マンの作家、江上剛さんの経済小説「ラストチャンス 再生請負人」(旧題「人生に七味あり」)は、飲食フランチャイズ企業の再生に取り組む企業人が主人公。難題また難題と続く中で悪戦苦闘する姿を描く

▼東京電力の小林喜光会長は今後の取り組みを「最後の機会」と表現した。柏崎刈羽原発でテロ対策など核物質防護の不備が相次いだ問題で、東電は原因究明や再発防止に関する報告書をまとめた。これについての記者会見での発言である

▼「是正措置をやり遂げられなければ、原子力事業に携わる資格がないとの烙印(らくいん)を押される」と危機感を口にした。最後の機会を与えられたという覚悟で取り組むという

▼ところが、会見は新たな不祥事を認める場にもなった。火災感知器100台が不適切に設置されていた事実を問題発覚後初めて公表したほか、安全対策工事の未完了も新たに発表する羽目になった。「最後の機会」は先が思いやられる

▼江上さんの小説では、周囲に陰謀や思惑が渦巻く中でも主人公は誠意を忘れず会社再生に取り組もうとする。今の東電からは誠意が感じられるだろうか。ここまで失態が繰り返されると、次は何だろうという気にすらなる。ラストチャンスなど、とうに失われているという見方さえあるのかもしれない。