「つなぐ広げるオレンジの輪」の認知症サポーター養成講座。参加者は認知症についての基礎知識から、どう接するかまで講師から説明を受けた=9月11日、新潟市中央区の新潟日報メディアシップ分館
「つなぐ広げるオレンジの輪」の認知症サポーター養成講座。参加者は認知症についての基礎知識から、どう接するかまで講師から説明を受けた=9月11日、新潟市中央区の新潟日報メディアシップ分館
認知症の人を地域で支えようと、新型ウイルス感染拡大の前、各地で行われていた行方不明者捜索訓練。適切な声掛けが命を守ることにつながる=2019年10月、胎内市

 9月は認知症への正しい理解を進めることを目的とする、世界アルツハイマー月間だ。近年、認知症は報道される機会や関連書籍が増え、認知症であることを公表し啓発活動に協力する人も出てきた。認知症という言葉は広く浸透した一方で、いまだに「認知症の人は何も分からない」「なったら人生おしまい」といった誤った認識が根強いことも現実だ。誤解を解き、認知症の人が安心して暮らせるには何が必要なのか。認知症サポーター養成講座を受講し、認知症に関わる人たちに話を聞いて、私たちにできることを考えてみた。(論説編集委員・小林正史)

 街中でオレンジ色のリングを身に着けた人を見たことはないだろうか。認知症サポーターの証しだ。新潟県内に6月末時点で26万5900人いる(全国キャラバン・メイト連絡協議会)。

 サポーターになるには養成講座を受ける。新潟日報社が進める認知症啓発キャンペーン「つなぐ広げるオレンジの輪」の認知症サポーター養成講座が11日、新潟市中央区で開かれ、記者も参加した。

 「病気を正しく知ることが大切」-。初めにこの日の講師の1人、中央区キャラバン・メイト連絡会の須貝秀昭さん(市地域包括支援センターふなえセンター長)は認知症の人に向き合う際、一番大切なことを伝え、「認知症の人とひとくくりにせず個人として接して、人間のつえとなって支えてほしい」と続けた。

 なぜサポーターが必要なのか。認知症の人の数は、高齢化の進行とともに年々増加。団塊の世代といわれる人たち全員が75歳以上となる2025年には700万人に達する推計される。

 一方で比較的低料金で入れる特別養護老人ホームは、要介護度の7段階(要支援1~要介護5)のうち、原則要介護3以上の人しか申し込みできない。それより軽いとされる要介護2以下の4段階に認定された認知症の人は、多くが地域で暮らしている。須貝さんは「地域に認知症の人がいるのが当たり前の時代」と指摘。誰しもが認知症になり得る時代、介護職でない一般市民が支えとなることが必要となってくる。

 講座では、認知症は病気が原因で脳細胞が機能しなくなる状態を示し、原因となる病気は100種類以上になるといった基礎知識から、接し方まで学んだ。

 同連絡会メンバーの小野寺よしこさんは講座で、一般的な加齢による物忘れと、認知症の記憶障害との違いを説明した。食事の記憶を、(1)一昨日の夕飯に(2)家で(3)ハンバーグと(4)サラダと(5)イチゴを(6)食べた-と6分割。加齢による物忘れは(1)と(3)が出てこないなど、夕飯というエピソードの一部分を忘れることが多いという。

 ところが認知症の人は(1)から(6)までの全ての出来事を「忘れるというよりも、記憶できない方に近い」のだという。このため「身に覚えのないことや思い出せないことが頻繁に起こる。このため不安になり聞く。しかし答えを聞いても、忘れてしまう。そのため同じことを繰り返し聞く」というのだ。

 よく認知症の人から何度も同じことを聞かれ、いらだったという声を聞く。だがそこには理由はあるのだ。小野寺さんは「行動の背景を知ることで対応が楽になる」と指摘。認知症の人の気持ちを理解するには「自分に起きたらどうだろうかと想像してみること」が大切だと話した。

 講座で配布されたテキストに記された「認知症の人への対応 ガイドライン」は特に参考になる。「驚かせない」「急がせない」「自尊心を傷つけない」の三つの「ない」と、「まずは見守る」などの対応の七つのポイント=表参照=を上げる。認知症の人に向き合うとき心掛けたい。

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 認知症介護の現場に立つ人にアドバイスを求めた。みどり病院(新潟市中央区)の認知症疾患医療センター、川井紀子副センター長は「本人の意思を大切にしてほしい」と強調する。

 川井さんは、1人暮らしの高齢者が認知症と分かると、近所の人たちが火災などを心配し、施設入所を勧めたという事例を挙げ「危ないのではという決めつけのもと、本人がどこで暮らしたいのかを聞かずに進めてしまう。認知症の人は分からないからと無視するのではなく、まずその人の声を聞いて」と呼び掛ける。

 認知症の人が道に迷うと命の危険につながることもある。ケアマネジャーの西本円・県介護福祉士会副会長は行方不明を防ぐには「勇気がいるが声掛けが大事」という。道に迷っているとおぼしき人がいたら、まず軽くあいさつをする。このとき大勢で囲むのではなく1人で、正面から、目線をそらさず声を掛けることがこつだという。また日常生活でも「店のレジで前の人がお金のを出すのに手間取っていたら、いらいらせず待ってあげて」という。

 そもそも「認知症の人のために何ができるか」という考え方が、線引きしていると指摘する人もいる。認知症対応の現場に関わる人は養成講座で学ぶ三つの「ない」を「誰に対してもしてはいけないこと。ことさら認知症のために何かすると強調すると、特別な人と逆に差別している気がしてならない」と語る。

 「特別扱いするのではなく、対等につきあい、向き合うことが大切」と話すのは、認知症の人と家族の会県支部の等々力務副代表。「その人ができないことをさりげなくフォローしてほしい。例えば電話で認知症の人と約束するとき、メモしてくださいねと伝えるとか」とアドバイスする。

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 介護をする家族は何がありがたいか。記者の実母は10年前にアルツハイマー型認知症の診断を受けた。5月に他界するまで、家族で介護してきたが、その間、何よりも救われたのは、周囲の人の温かいまなざし、見守りだった。

 外食が好きだった母を居酒屋などに連れて行った。料理を運んできた店の人が母に笑顔を向けてくれると、われわれもほっとした。認知症ゆえに失敗したときも、そっと見守ってくれたことは応援されている気がした。さりげない「優しさ」こそが、本人と家族への何よりの支えになると介護を終えた今、実感している。