イグ・ノーベル賞を受賞した長岡技科大の西山雄大さん。手に持つのは、主催者から送られたデータを基に作った紙製トロフィーと副賞の“10兆ジンバブエドル紙幣”=長岡市上富岡町
イグ・ノーベル賞を受賞した長岡技科大の西山雄大さん。手に持つのは、主催者から送られたデータを基に作った紙製トロフィーと副賞の“10兆ジンバブエドル紙幣”=長岡市上富岡町

 人々を笑わせ、考えさせる業績に贈られるイグ・ノーベル賞。今年は「歩きスマホ」について調べた長岡技術科学大学(新潟県長岡市)の講師西山雄大さん(39)ら日本の4人のチームの研究が「人はなぜぶつかることがあるのか」というタイトルで「動力学賞」を受賞した。日常で見掛ける光景を、歩行者が相手の行動を読む「予期」を切り口に解明。歩きスマホの人自身の回避行動が鈍るだけでなく、周囲で普通に歩く人の「予期」も妨げていることが見えてきた。西山さんは「大規模イベントや避難など、混雑する時の事故防止策につながるかもしれない」と展望する。(長岡支社・永井竜生)

 長岡技科大の講師がイグ・ノーベル賞を受賞したとの一報が9月上旬に入り、大学に向かった。「裏ノーベル賞」とも呼ばれる権威ある賞を取った西山さんは研究室で、派手な柄が入ったシャツにサンダル姿で出迎えてくれた。

 靴のまま入ろうとすると「一応、この線からは土足厳禁なので」とお願いされた。シャツ集めは趣味の一つといい、「着ると楽しい気分になる」とおどけるが、研究のことになると、真剣な表情で語ってくれた。

■    ■

 今回の研究は、西山さんが神戸大大学院時代、動物の群れの研究を一緒にした京都工芸繊維大の村上久助教(34)に誘われたことがきっかけ。実験計画の作成と実施、論文執筆を担当した。

 実験では、対面する27人ずつの2グループに幅3メートル、全長10メートルの通路を何度もすれ違ってもらい、その様子を上からビデオカメラで撮影した。

 片方の集団の3人にスマホで計算問題を解かせる課題を付けたことが実験のミソだ。先行研究では、注意をそらす要素を入れた解析はほとんどなかったという。こうした準備をして、相手の行動を読む「予期」と集団との関係の検証に挑んだ。

 実験の結果、歩きスマホの人がいない場合は、歩行者の列が自然に生まれ、スムーズにすれ違えた。一方、歩きスマホの人がいた場合、注意力が散漫になった3人が、ぶつかる寸前にようやく気が付いて大きく回避。歩く人全体で見ても、流れが詰まり、歩行速度が遅くなって、列を再び作るのに時間を要した。

■    ■

 歩きスマホが本人の注意力を低下させるのは当然の結果に映るが、なぜ周囲の歩行者にも影響するのか。

 西山さんによると、通常であればお互いが「予期」をするのでぶつからない。しかし、歩きスマホの人の「予期」が正常に働かないと、「あうんの呼吸ができなかった」(西山さん)。

 論文では「群衆の中でスムーズな歩行を行うには、予期が一方向ではなく双方向で行われる“相互予期”が必要だ」と結論付けた。予期と集団の歩行との関係を初めて検証したと、イグ・ノーベル賞でも評価された。

 チームは今後も予期の解明を進める。今回の研究で「あうんの呼吸」が働かなくなる現象が起きることは分かったが、何が予期に大きな影響を与えるかはまだ解明されていない。

 西山さんはイグ・ノーベル賞受賞について「日常の出来事から科学的な発見が生まれることを知ってもらえた」と喜んだ上で、予期の解明について「今後も頑張ります」とはにかんだ。

◎西山雄大(にしやま・ゆうた)1982年、大阪市出身。神戸大大学院で博士号(理学)取得後、新潟大、大阪大を経て2017年に長岡技科大に講師として赴任した。専門は認知科学で、動物の群れのメカニズムを研究している。

動画