公平な貿易を実現するための場に政治的な対立や混乱が持ち込まれてはならない。

 日本は議長国として指導力を発揮し、他の加盟国とも連携してルールに基づいた加盟可否の判断に努めてほしい。

 先月、日本、カナダ、オーストラリア、シンガポールなど11カ国でつくる環太平洋連携協定(TPP)に、中国、台湾が相次いで加入を申請した。

 共産党の一党独裁である中国と、民主主義の台湾は経済体制や貿易慣行が大きく異なる。

 先行して申請した中国は「TPPには多くの中国周辺国が関わり、中国が加わるのは必然だ」とし、台湾加入を断固阻止する構えを示す。

 台湾は日本などへの働き掛けを強化し、「中国が先に加入すると台湾の加入はリスクにさらされる」と中国による妨害に警戒感を隠さない。

 TPPを舞台に中台の対立が深刻化し、アジア全体の安全保障に悪影響を及ぼす事態に陥らぬようにしなければならない。

 協定加入には、全加盟国の承認が必要になる上、進出してくる海外企業への技術移転の強要や国有企業の優遇を禁じるなどの厳格なルールがある。

 気掛かりなのは、中国では多くの基幹産業で国有企業の優遇が続き、知的財産権保護の遅れなど改善すべき課題が山積していることだ。

 最近ではIT大手など民間企業への締め付けも強化し、市場経済化に逆行する動きとして国際社会で懸念が広がっている。

 中国がTPPのルールを満たせるかどうか見極めることが、協定のまとめ役として日本には不可欠だろう。

 TPPは当初12カ国で協定を結んだが、米国のトランプ前政権が離脱し11カ国で発効した。

 加入のハードルが高いにもかかわらず、中国が申請に踏み切ったのは、米国主導の対中包囲網の形成をけん制する意図が指摘されている。

 米国不在の中、アジア太平洋で存在感を誇示し、日本など同盟国に揺さぶりをかける狙いが透けて見える。

 それだけに、警戒を怠ってはならない。現状ではバイデン米大統領は早期復帰に慎重な姿勢だが、日本は粘り強く働き掛けることが必要だ。

 さらに、中台の申請については加盟国の受け止めに温度差もあり、日本はここでも難しいかじ取りを求められる。

 シンガポール、マレーシアといった、中国と関係が深く貿易額が多い東南アジアの加盟国には中国待望論がある。

 一方、中国から貿易制裁を受けるオーストラリアや中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)副会長の拘束を巡りぎくしゃくするカナダでは中国警戒論が強い。

 大切なのは、思惑に振り回されないことだ。

 中台両国はTPP加盟の条件を守れるのか。加入がTPPにとってメリットがあるのか。日本は加盟国と連携を深め、そこを冷静に吟味したい。