国の支援に感謝するコスモツーリスト社長の金子専さん(中央)。今後の負担の在り方は示されていない=新潟市西区
国の支援に感謝するコスモツーリスト社長の金子専さん(中央)。今後の負担の在り方は示されていない=新潟市西区

 新型コロナウイルス対策に、国が巨額予算を投じている。財源の多くを借金(国債)で賄うが、今後の国民負担の議論は始まらず、8日の岸田文雄首相の所信表明演説でもほとんど触れられなかった。むしろ各政党は衆院選に向け、さらなる国債発行に頼った経済対策を打ち出している。ウイルス禍で打撃を受けた新潟県内の企業の経営者は国の支援に感謝する一方、将来に不安を募らせる。「今はありがたい。でも、子や孫の世代に負担がいってしまう」

 消えうせたのは、1年の売り上げの半分に相当する2億円に上った。旅行社コスモツーリスト(新潟市西区)は昨春、新型ウイルスの影響でキャンセルの電話が鳴りやまなかった。社長の金子専(たかし)さん(52)は「つぶれると思った。県から8千万円の制度融資を受け、本当に助かった」と振り返る。

 顧客は大学生がほとんど。昨春以降、部活の合宿も卒業旅行も元に戻っていない。旅行業だけに頼れないと、別会社を作り抗ウイルス・抗菌のガラスコーティング事業を始めた。

 今春にも3千万円の制度融資を受け、借り入れは1億1千万円に上る。利子分は国が負担するが、3年後から月140万円の返済が始まる。金子さんは「今、助けてもらっている恩返しをしなければいけない。返済はもちろん、黒字に戻してしっかり納税したい。だからこそ、会社をつぶせない」と話す。

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 県地域産業振興課によると、県制度融資の実績は2020年度が4238億9300万円で過去最大となった=グラフ参照=。そのうちコロナウイルス対策の融資は4184億8千万円。リーマン・ショック後の714億500万円(08年度)と比べても桁違いの実績だ。月別でみると融資制度の拡充により、20年6月の1017億3400万円が最も多かった。

 国は20年度、3回の補正予算を組み、財源となる新規国債発行額は112兆円を超した。19年度の36兆円の3倍に上る。21年度の当初予算は43兆円超で、国債の発行残高は1100兆円超に膨張している。

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 「ぎりぎりまで努力しても及ばないところがある。そこを国に助けてもらえた」。ウイルス禍の影響が大きいタクシー業界。四葉タクシー(新潟市東区)の専務、豊田耕祐さん(79)は感謝する。

 同社の売り上げは、ウイルス禍前は毎月2500万円ほど。それが昨年5月は900万円。今年9月も1500万円にとどまった。3千万円の制度融資を受けたほか、雇用調整助成金などで1880万円の給付を受けた。

 公的な支援を受けているからこそ、公共交通を担う責任を果たそうとする。感染拡大の影響で24時間営業をやめる同業他社もあるが、利用者のニーズに全て応えたいという。「もらうことに慣れて、大事なものを失っていないだろうか」と豊田さんは思う。

 しかし、心配もある。政府はこれまで巨大な借金をどう返済するか、国民負担の議論を回避。岸田首相は8日の所信表明演説で、「財政健全化に向けて取り組みます」と述べたのみで、具体的な内容はなかった。

 豊田さんは「湯水のごとく予算を投じて、借金はどうなるのか」と懸念。金子さんも「子どもや孫が困らないようにしなければ」と打ち明ける。

 19日公示の衆院選に向け、各政党は競いながら大型経済対策を掲げる。負担についても選択肢を示すのか、注目される。

◆消費増税の可能性も 新潟大・今本教授

 コロナウイルス対策のため、1100兆円を超した国債の発行残高。新潟大法学部の今本啓介教授(48)=財政法=は、国債の格付けが落ちていないことに対し「今は何とかうまくやっていても、いつまでも続くとは限らない。増税せざるを得ないときがくるかもしれない」と指摘する。

 今本教授は「財政法上は赤字国債を発行できないのが原則。将来的に発行しないようにする必要がある」とした上で、「財政健全化という言葉を聞かなくなった。安倍晋三政権は財政規模を大きくしてきたが、ウイルス禍でさらに国債が増えた」とする。2021年度当初予算は、歳入に占める国債の割合が40%となっている。

 国債を発行し続けるには「デフォルト(債務不履行)を生じさせないために、増税か経済規模を大きくする必要がある。借金を返済するためにも同様だ」と強調。東日本大震災の復興予算は、所得税などの増税で30兆円超の財源を賄う。

 「人口が減り、高齢化がさらに進み、今のままで経済規模を拡大することは難しいのではないか。法人税は諸外国と税率の引き下げ競争をしている。所得税の累進税率を上げても増税効果は発揮しにくい。消費税増税が議論される可能性が高い」とみている。