「トキみ~て」で公開されているトキ=長岡市寺泊夏戸
「トキみ~て」で公開されているトキ=長岡市寺泊夏戸

 長岡市寺泊夏戸で県内初のトキの分散飼育が始まり、今月で10年がたった。市の飼育センターは2011年10月に2ペア4羽を受け入れ、翌12年に繁殖に成功。これまで計49羽を佐渡に送った。市はトキと自然環境の大切さを学べる施設や観察できる場も整備し、子どもたちの学習に活用する。今後、期待されるのは環境省が本州で検討するトキの放鳥。市は地元の理解や生息環境整備を見極め、候補地に名乗りを上げるか、考える方針だ。(長岡支社・村山穂波)

 10月中旬、分散飼育センターの観察棟のケージでは、トキが水辺でのんびりと餌をついばんだり、飛び回ったりしていた。現在、観察、繁殖用の成鳥9羽がいる。今年は繁殖用の2ペアから6羽が産まれた。

 分散飼育は、1カ所だけで飼育すると鳥インフルエンザなどによる全滅の恐れがあり、始まった。センターにトキがやってきたのは11年10月11日。これまで佐渡に送った計49羽のうち35羽が自然に放たれ、トキの野生復帰に貢献している。

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 長岡市が分散飼育を始めたのは、中越地震からの復興に生かそうとの思いがあった。

 飼育は手探りだった。当初から携わる瀧澤敏勝職長(56)は「経験がなく、佐渡や他の分散飼育地に聞き、工夫しながらやってきた」と振り返る。

 トキは敏感な鳥で、普段と違うことがあるとパニックを起こす。飼育員の顔を覚えてもらうため担当を固定し、掃除の手順も決めて細心の注意を払った。10年たち、瀧澤さんは「飼育に人が手を出すタイミングもつかめてきた」と話す。

 市民ら向けの施設整備も進めた。旧夏戸小学校を改装し、自然環境を学べる「トキと自然の学習館」を12年に開設。トキの標本を展示し、生態を紹介する。18年にはケージ越しに観察できる「トキみ~て」を開館。年間約3万人が訪れ、小中学生の校外学習にも使われている。

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 寺泊求草の大河津小学校の3年生17人は7月、総合学習で両施設を訪れた。餌やりを見学し、生態や生息に必要な環境を学んだ。

 児童は現在、11月3日にある校内発表会に向け、資料やクイズを作っている。トキの天敵や餌をテーマにしたグループの本田隼君(8)は「トキが飛んで、きれいな羽の色が見えた。自然を守るためにできることを伝えたい」と張り切る。トキの飛来や寺泊での放鳥も期待し、「寺泊でも見たい」と話す。

 堀田勝次センター長(64)は「地域の方々には、トキが野生復帰できるような環境を保全する大切さへの理解を深めてほしい」と語った。

◆里山整備、住民理解が課題

 かつて全国各地にいたトキは、乱獲や生息環境の悪化で数を減らし、最後は佐渡島に残るだけになった。国は人工繁殖で数を増やそうと1981年、野生に残った5羽を一斉捕獲した。ただ日本のトキによる繁殖はうまくいかなかった。2003年にはキンが死に、日本産のトキは絶滅した。

 一方、1999年、中国から贈られたペアが、佐渡のトキ保護センターで国内初の人工繁殖に成功。その後も数を増やした。2008年には野生復帰を目指し、島内で10羽を放した。

 島での放鳥は続き、野生下での繁殖にも成功した。国内には9月末現在、野生の推定数を含めて667羽のトキが生存する。そのうち183羽が長岡など分散飼育先4カ所と、佐渡で飼育されている。

 次の段階として環境省は今年7月、35年頃に本州でのトキの定着と繁殖を目指し、ロードマップを改定。10月に本州における放鳥地域の選定要件の素案を示した。トキが生息できる水田、水辺などが一定の面積あることや、佐渡市と選定地域が共生に向けた交流を図ることなどを挙げた。

 長岡市もいずれ、市内でトキが生息することを期待している。一方で、放鳥については、餌場となる里山の整備や住民の理解が必要とみる。市環境部環境政策課の桜井秀行課長(53)は「市の環境をより良くし、あらゆる生態系と共生していきたい。トキは環境保全の象徴となる」と話し、放鳥を今後の検討課題としている。

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