種まきから育てた稲の刈り取りをする「佐渡Kids生きもの調査隊」の隊員たち=佐渡市旭
種まきから育てた稲の刈り取りをする「佐渡Kids生きもの調査隊」の隊員たち=佐渡市旭

 人工繁殖など野生復帰の取り組みが進み、佐渡の大空を元気にはばたくトキ。野生下で生きていくために欠かせないのが、餌となる水田の多様な生き物だ。

 新潟県佐渡市では農薬、化学肥料を減らすなどした市独自の認証米制度をはじめ、環境保全型農業などに取り組んでおり、2011年に「トキと共生する佐渡の里山」として島全体が世界農業遺産(GIAHS=ジアス)に認定された。

 環境に配慮した農業が進められた背景には、佐渡の米作りへの大きな打撃と08年のトキ放鳥が大きく関係している。

 佐渡産米は04年の台風被害以降、米価の下落や販売の伸び悩みが続いていた。JA佐渡の元理事長で、現在はトキの餌場づくりなどに取り組む「潟上水辺の会」代表世話人の板垣徹さん(77)は「このままでは佐渡の米作りがやっていけなくなるという危機感があった」と振り返る。さらに、トキ放鳥に向け、餌場となる水田などを整え、生物多様性を高めることも必要だった。

 市は07年に農薬と化学肥料を5割以上減らし、生物多様性に配慮した農法で栽培した「朱鷺(とき)と暮らす郷(さと)づくり認証制度」を導入。佐渡産米の高付加価値化とトキの生息環境整備の両立を目指した。

 20年時点で、認証米の作付面積は主食用水稲作付面積の約2割。佐渡米のブランド力向上や減農薬農法の普及につながるなど成果を上げている。

 課題もある。市によると認証米の基準をクリアするためには生き物調査が必要だが、高齢化のため難しさもあるという。佐渡では年間約200戸のペースで農家が減少。「トキが生きていける環境を未来につなげていくことが必要だ」。板垣さんは厳しい表情を見せる。

 そうした中、生物多様性の大切さを島内外の子どもたちに伝える取り組みが続いている。一般社団法人「佐渡生きもの語り研究所」が主催する「佐渡Kids生きもの調査隊」の活動には、08年から延べ約400人以上の子どもたちが参加。調査隊を経て、生物や生態系を学ぶ大学に進学している参加者もいる。

 研究所の職員、大石麻美(まみ)さん(49)は「多様性ある自然が失われてから、ジアスに選ばれた佐渡の価値に気付いても遅い。田んぼや農業に親しみを持ってもらうことが将来のU・Iターンにつながる。地道に活動を続けていくことが重要だ」と力を込めた。

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