「見た人が温かい気持ちになればなあ」。そんな思いで銅板1枚から、眠たそうに目を細める羊を打ち出したという。長岡造形大学で働く平戸亜海さんは自ら大賞受賞作を説明した

▼受賞の弁を、また目を細めて聞いていたのは燕市の人間国宝、玉川宣夫さんである。新潟市の雪梁舎美術館で26日まで開かれている「工芸2021」。その表彰式の一場面だ。同じ金工で国を代表するような作家が若手の苦心談にうなずく

▼陶磁、漆、竹、皮、染織…。会派や技法にとらわれず、若手とベテランが刺激し合う。そんな作家育成の場をつくりたい。展覧会の狙いを雪梁舎の捧実穂理事長は話す。今回は従来の枠組みを超えた初の企画だ

▼工芸は「用と美の融合」といわれる。だが実用の流れを重視するいわば伝統派と、芸術性を尊重する現代派の作家が一堂に会する機会は全国でも少ないという

▼玉川さんと同じ人間国宝の陶芸家、伊藤赤水さんらは県伝統工芸展を雪梁舎で15回続けてきた。近年は後継者の減少が悩みの種だった。本県は国指定の伝統的工芸品が16品目あり、東京や京都に次いで多い。玉川さんは「これを機に工芸の新しい潮流が新潟から生まれたら」と期待する

▼玉川さんも協力する「燕三条 工場(こうば)の祭典」も業種の垣根を超えた企画だ。8年前に始まり、今では「ものづくり新潟」を世界に発信する。地場産業の根っこをたどれば伝統工芸に行き当たる。「守ることと変わること。毎年の『工芸』展が実験場になりそうです」