あまりの理不尽に、憤りを禁じ得ない。犠牲になった人や遺族はどれほど無念なことか。痛ましさに言葉を失う。

 多くの人々の命が一瞬のうちに奪われた悲劇は、放火によるとみられている。惨事の背景に何があったのか。警察や消防など関係機関は全容解明に全力を注いでもらいたい。

 大阪市北区の繁華街で、雑居ビルの4階にある心療内科クリニックから17日に出火した火事で24人の死亡が確認された。

 大阪府警は、火災で重体となっている61歳の男が、可燃性の高い液体をまいて火を付けたとみて、殺人と現住建造物等放火の疑いで調べている。

 クリニックは奥に細長い構造で、エレベーターを降りるとすぐに受付と待合室がある。診察室などはその奥にある。

 建物の外に出るにはエレベーターかその隣にある非常階段を使うしかなかったが、クリニックの受付近くで火の手が上がったため、多くの人が逃げ道を失った可能性がある。

 液体がガソリンなら、引火するとすぐに炎と煙が広がり、逃げるのは極めて困難になる。

 火事は出火から30分でほぼ消し止められた。にもかかわらず多数が死亡した。

 火災があった金曜日は、午前中に休職者の職場復帰をサポートする集団治療のプログラムが開かれていた。密集状況が大勢の犠牲につながった形だ。

 2019年には京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」が放火され、36人が犠牲になった。また同様の事件が起きたことにも悔しさを覚える。

 出火30分前には大阪市西淀川区の住宅でもぼやがあった。住宅はクリニックの火災で重体になった男の自宅とみられ、クリニックの診察券も見つかった。

 男の周辺に何があったのか、足取りなどを含め丁寧に調べなくてはならない。

 クリニックは精神科や心療内科の診察が専門で、働く人のうつ病やパニック障害などをサポートしていた。

 院長は親身になってくれると評判だったという。ウイルス禍の中で心が疲れ、頼りにしていた患者も多かったはずだ。

 同じ境遇に置かれている人は全国にも少なくないだろう。事件が与えた影響が心配だ。

 雑居ビルを巡っては、44人が犠牲になった01年の東京・新宿歌舞伎町ビル火災で、避難経路の階段や踊り場がロッカーなどでふさがれ、逃げられなかったことが問題になった。

 これを受けて消防法が改正され、消防署が障害物撤去などの是正命令を出せるようになった。今回火災があったビルでは大阪市消防局の定期検査で防火設備に不備はなかったという。

 今回と同規模の雑居ビルでは階段は1カ所なのが一般的だ。避難経路が限られることへの対応は容易ではないが、万が一に備え利用者のリスク管理について改めて検討する必要がある。

 同時に私たち一人一人も避難経路を確認する習慣を付け、身を守る対策を心掛けたい。