16年にわたり在任したメルケル前首相は自由と民主主義、国際協調の重要性を説き、行動した。新政権も引き続き、欧州と世界の安定に向けて存在感を発揮できるか。

 ドイツで中道左派、社会民主党(SPD)のショルツ首相率いる新政権が発足した。新政権は、第1党SPDと第3党の環境保護政党「緑の党」、経済界に近い第4党の中道、自由民主党(FDP)の連立だ。

 ショルツ氏は、外交面ではメルケル政権時代の親米・親欧州連合(EU)路線を引き継ぐ。異なるのは、中国に対する向き合い方だ。

 経済分野で中国と密接な関係を構築した前政権とは一線を画し、専制主義への懸念から厳格な姿勢で臨む。中国離れを加速させる米国やEUと足並みをそろえた形だ。

 外相には、中国の人権問題について痛烈に批判してきた緑の党のベーアボック共同代表が就任した。

 メルケル氏引退で、EU外交に大きな変化が生まれるのではないかとの観測もある。

 メルケル氏は、人権や民主主義を巡り西欧諸国と対立が続く中国やロシア、東欧の加盟国とも融和姿勢を示した。それだけに氏が政界から去った後は、中ロとの対立やEU内の東西分裂が進むとの懸念だ。

 ただし、ドイツの対中関係については経済的な結び付きもあって厳格一辺倒にはならないとの見方もある。

 両国関係が国際社会に及ぼす影響は小さくないだろう。今後の動向に目を凝らさなければならない。

 新政権は内政面では気候変動対策と社会政策に力を入れ、移民のドイツ社会への統合も進める考えだ。メルケル氏よりさらにリベラル色が濃い。

 まず注目したいのは、来年春の核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加方針だ。核廃絶は緑の党の党是で、先進7カ国(G7)初の表明だ。

 広島が地盤の岸田文雄首相は「核廃絶」を訴える。ならば、世界唯一の戦争被爆国として、参加を決断すべきではないか。

 気候変動対策も野心的だ。3党は2038年までに石炭火力発電所を全廃するメルケル政権の決定を前倒しし、30年までに廃止することで同意した。気候変動対策と経済政策を管轄する重要省庁も新設する。

 再生可能エネルギーの拡大にも努め、30年までに総発電量の65%を賄うとした目標を80%に高めた。具体的な工程表などが示されれば、日本にとっても参考になろう。

 ショルツ氏を除く閣僚が男女同数となるなど、ほかにも日本が見習うべき点がある。

 一方、課題として指摘されているのが政策の合意形成だ。SPDと緑の党の方向性は近く、過去にも連立を組んだことがある。だがFDPは2党と特に財政政策面での隔たりが大きい。

 内政、外交で着実に政策を遂行する上で安定的な政権運営ができるかが大きな鍵となろう。