大火から再生した中心市街地に、にぎわいをどう取り戻すのか。長期的な視野に立ち、粘り強い取り組みが求められる。
糸魚川市の駅北地区で147棟、約4万平方メートルを焼いた2016年の糸魚川大火から22日で丸5年となる。
被災地では焼失した住宅や店舗、道路などハード面の整備が終わり、雁木(がんぎ)のある街並みが復活した。防火対策のため建物の間隔や道路幅が広くとられ、大火の教訓を生かしたまちづくりが進められている。
にぎわい創出の拠点は、市が昨年4月に開設した駅北広場「キターレ」だ。被災エリアにあり、屋内ホールやダイニングスペースなどを備えている。
多くの市民がイベントや打ち合わせに活用し、交流の場になっている。商店街関係者からは「キターレができて人の流れが増えた」との声が聞かれる。
一方で厳しい現実もある。被災地には火災後、空き地となったまま駐車場などとして利用されている土地が点在する。
市がまとめた大火3年後の被災者の状況によると、被災地内に生活の場を再建した割合は6割、事業者の被災地内での再建割合は4割にとどまった。現在もほぼ変わっていないという。
それだけに被災地に活力をもたらすためには、ソフト面の対策が一層重要になる。
市は昨年10月、市民や有識者と大火からの復興ビジョンを描く「駅北まちづくり戦略」を策定した。中心市街地の住民やそこに集う人々を「まちなか大家族」と捉え、民間主導でにぎわいをつくり出すとする。
実施期間は20年から24年までの5年間とし、「子育て」「地産地消」「高齢者元気」の三つのテーマを掲げた。
戦略に基づき、キターレで子育て世代が交流を深めるイベントや、高齢者の健康維持のための体操教室を開くなど一部の事業は動きだしている。
大火翌年に始まり、被災地に飲食や物販など多くの露店が並ぶマルシェは、現在も続く。
こうしたイベントには、若者の姿も目立つ。商店街の女性たちは「街なか女子部」を名乗り、店舗で提供する商品やサービスに関連した体験ができる企画で活気を生んでいる。
新型コロナウイルスの影響で一時は商店街への人出が大幅に落ち込んだものの、客足が戻り始めるなど明るい兆しもある。
糸魚川市は大断層の露頭が見学できるフォッサマグナパークや国石ヒスイ、奴奈川姫伝説など観光資源に恵まれている。
これらを生かしながら、官民一丸となって着実に復興の歩みを進めてもらいたい。
民間の懸命な取り組みとは裏腹に、市は今年、官製談合事件や市長選に絡む副市長の投票依頼問題など不祥事に揺れた。
市がこのような問題の対応に追われていては、復興に水を差すことになりかねない。綱紀粛正に努めてほしい。
忘れていけないのは、出火の原因が失火だったことだ。一人一人が火の用心を徹底したい。