毎年のことだが、正月は初ものであふれる。先日の本紙には県内各地の初競りの記事が載っていた。新年の季語には初芝居というのもある。〈幕の内頼むも手順初芝居〉鈴木榮子

▼東京・銀座の歌舞伎座では初春大歌舞伎が始まった。ウイルス対策を講じての幕開けである。幕あいに客席で幕の内弁当を広げるのはお預け、大向こうからの「待ってました」の掛け声は望むべくもない

▼歌舞伎の世界では多くの幕が使われる。縦縞(じま)の定式幕は始まりと終わりに引かれ、黒、柿、萌葱(もえぎ)の配色は歌舞伎のシンボルカラーとされている。浅葱(あさぎ)幕なら昼間を象徴し、黒幕は暗闇を表す。背景画が描かれているものは道具幕と呼ぶ

▼演出効果を高めるためにも欠かせない。演じている途中、幕で舞台を一瞬のうちに覆い隠すのを振りかぶせという。振り落としは吊(つ)ってある幕を落とし、舞台を見せる。いずれも場面転換を図る手法の一つとして、なじみが深い

▼2022年の幕が上がって10日ほど。人生を舞台に例えれば、その主役は自分自身にほかならない。一度きりの舞台で繰り広げられるのは見せ場か、それとも愁嘆場か。修羅場が待ち受けているかもしれない

▼「この世はすべて舞台、男も女も役者にすぎない」。かのシェークスピアはこんな言葉を残している。三が日を避けて訪れた初詣で、この1年の無病息災を念じた。急速な広がりを見せるオミクロン株のせいもあり、願いは切実だ。代役のきかない主人公を演じるべく思いを新たにする。

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