明治維新から間もない1873(明治6)年、皇居の火災で太政官庁舎が類焼し、所蔵していた公文書や図書の大半が失われた。政府は直ちに公文書の復元に協力するよう各省に指示した

▼火災までに作成された文書を謄写して提出するよう求めた。復元作業に当たる職員に支障がないようにと念押しもした。行政の文書管理の大切さが十分に根付いていない時代でありながら、公文書を守り抜こうとする政府の姿勢が伝わる逸話だ

▼「書類整備の完否は結局、外交の勝敗を決する」。こう述べたのは、戦前の外交官で外務大臣も務めた石井菊次郎である。米国との間で、中国での日本の特殊権益などを規定した「石井・ランシング協定」で知られる

▼外交を進めるには決定事項だけでなく、決定に至る過程を理解しておくことが重要とされる。公文書をきちんと残さなければ、国益を損ねることになる。外交に精通した石井はそのことを痛感していたのだろう

▼「外交」は「行政」にも置き換えられる。それなのに昨今は、公文書の取り扱いが問題になる動きが度々浮上している。森友学園問題を巡っては決裁文書の書き換えが明らかになり、首相主催の「桜を見る会」では招待者の名簿が破棄されていた。公文書管理は後退していると言いたくなる

▼東京の国立公文書館では15日から「近現代の文書管理の歴史」と銘打つ企画展が開かれる。先日の紙面が報じていた。冒頭で紹介した、焼失書類の復元への協力を指示した文書も展示される。

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