光熱費の督促を手にする女性。「千円、2千円さえ払うのが苦しいなんて、もう情けなくて」と声を落とす
光熱費の督促を手にする女性。「千円、2千円さえ払うのが苦しいなんて、もう情けなくて」と声を落とす

 新型ウイルスの新潟県内初確認から2年。この間、収入の激減や失職に見舞われた人がいる。社会に不安が広がり、店の従業員が心ない言動を浴びることもあった。職場の飲み会は減り、感染対策に気を使う日々が続く。終わりの見えない感染禍のただ中で、働く人の葛藤を見つめる。(4回連載)

 夫と子どもが好きなラーメンを月に2、3回、みんなで食べに行くのが楽しみだった。そんなふうに家族で外食を楽しんだのは、いつが最後だったのかも思い出せない。今は月1500円のガス料金の督促に追われている。

 葬儀会社で働く新潟市の女性(48)は、新型コロナウイルス感染拡大前は当たり前だった「日常」を思い、目を伏せた。

 2020年2月29日、県内で初めて感染が確認された。感染の広がりはサービス、建設、運輸、福祉と社会の隅々まで影響を及ぼした。女性にとっても50代の夫、成人して独立した息子、高校生の娘とのささやかでも幸せな日常の変化はあまりに大きかった。

 未知のウイルスが広がり始めた20年4月、県内にも緊急事態宣言が出ると葬式や通夜がなくなった。

 「仕事がないから休んでください」

 会社が公的な支援を受けるようになるまでの約1年間、休んだ分の給料が基本給から削られた。会社がつぶれてしまったらと考えると、異を唱えることもできなかった。

 個人事業主として働いていた夫も仕事が来なくなった。その年の夏ごろ、うつの症状が出始めた。「仕事がないのは自分のせい」。夫は自らを責めた。一日中、自宅の同じ場所に座り、外出も人に会うこともできなくなっていった。

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 この2年、葬儀業は苦境が続く。おときには料理が出ず、仕出しの注文もない。家族だけの葬儀は利益が少なく、残業代やボーナスは望むべくもない。

 感染拡大前、女性の手取りは18万円ほどだったが、2020年4月以降、5万〜6万円に減った。個人事業主の夫は仕事が入らず、無給状態が続いた。だが、家賃は月5万円超。さらに車のガソリン代や携帯電話の通信料金、夫の仕事の経費もある程度残しておかなければいけない。

 貯金が見る見るうちに減った。夫が受給した持続化給付金も、生活福祉資金の貸し付けもすぐに生活費に消えた。何とか補おうと、市場で早朝の仕事の掛け持ちをしたこともあったが、体調を崩して続けられなかった。

 今年に入り、流行の「第6波」がさらに追い打ちを掛ける。また勤務は月の半分ほどになった。月13万円ほどに戻っていた手取りが再び減る可能性もあるが、貯金はもう底を突いている。

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 食費や光熱費など、暮らしを切り詰めるしかない。女性は家に1人でいるとき、絶対に暖房はつけないという。冷え切った部屋の中でつくため息は白い。テレビも故障したまま直していないが、「壊れてなにより。電気代がかからないから」。節約を重ねた末の電気料金は月4千円、ガス料金は月1500円…。それでも毎月、督促に追われる。

 何とか支援を受けられないかと、行政の窓口へ相談に行くと「もっと困っている人はたくさんいる」「40代、50代でまだ働ける」と言われた。フードバンクも頼ったが、一人親や幼い子がいる家庭が支援の中心だった。

 「頑張って働いてきて、税金も収めてきたのになぜ」。両親がそろっているから、働ける年齢だからと、手を差し伸べてもらえない。電気が止まりそうなとき、頼れるのは年金暮らしの実家だけ。公的な支援は受けられない上、民間の保険も解約せざるを得ない。セーフティーネットから漏れていく様は、まるで「死刑宣告」だと感じる。

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 娘にひもじい思いはさせたくない。だけど、申し訳なさで涙が出そうになる。「友達と遊ぶ我慢をしているのも、スーパーで欲しい物を横目で見ているのも分かる。他の家庭だったら違ったのか。いっそ一人親になるため離婚しようか…」

 自分自身は追われる夢ばかり見て眠れない。「もう疲れてきた。あと何年我慢すればいいのかな」。最近、夫が週数回のアルバイトに出られるようになった。「症状が良い方向に向いてくれたら。仕事はすごくまじめな人だから」。今はこの小さな光が、生きていく希望だ。