【2022/04/01】

 2016年の新潟県立新潟工業高生いじめ自殺は新潟地裁で訴訟が和解した。いじめ防止対策推進法に反した学校の対応が自殺の要因になったと、県教育委員会が認めた。いじめが始まってから約3カ月、追い詰められた男子生徒の周辺で何があったのか。命を救えたはずの機会を、学校はなぜ逃したのか。訴訟記録や法廷での証言などを基に検証し、教訓を探る。(報道部・高橋哲朗)

 いじめの始まりは夏休み明けの16年9月だった。1年生のクラス内で男子生徒=当時(15)=を指す不愉快なあだ名が使われ始めた。8人前後の集団内で、本人に分からない形で言われていたとみられる。

 うち1人が9月中旬、男子生徒の写真を無料通信アプリLINE(ライン)のグループ内に送った。10月には、あだ名と生徒に関する合成画像を作って投稿。別のライングループにも転載された。

 その後、あだ名を言う範囲はクラスの3分の1とクラス外に拡大。「お前友達いないんだよな」などの直接のからかいもあった。

 訴訟記録には、加害生徒が投稿時に交わしたラインの会話が残されている。

 1人が「作ったなう」「暇なう」と投稿し、別の1人が「ねろ」と返した。

 会話には、「いじめ」と意識しているような記述はなかった。

男子生徒があだ名のネット拡散の可能性を担任に訴えた手紙の画像。生徒の通信端末に残されていた

 男子生徒の苦痛は大きかった。投稿を直接見ることはなかったが、遅くとも10月20日頃にはいじめを認識。27日には席替えトラブルを担任に相談している。

 そして11月1日、手紙で担任にいじめを訴えた。悪口やあだ名で侮辱されていること。あだ名はクラス外の見知らぬ人にも言われ、ネットでさらされていると思われること。「耐えられません」ともつづり、担任が読む間、泣いていた。

 手紙で名前の挙がった加害生徒は2人。画像を載せた生徒も含まれていた。教頭の指示で、生徒指導担当教諭が聞き取りをした。

 教諭の証言によると、当時の同校は毎年、ラインが絡むいじめがあった。「今回もラインの可能性が高い」と思いつつ「閉鎖性が高いツールで(追及は)難しい」と考えていた。

 実際、2人は事実に反し、あだ名や書き込みを否定。教諭は悪口を言わないことや、ネット投稿があれば全て消すことを指導し、態度などから「分かってくれそうだ」と感じたという。

 だが、聞き取りはわずか15分ほど。しかも口裏合わせなどの懸念から「普通は分けてやるべき」(教諭)なのに2人同時だった。「多分、本当のことを言っていないんだろうな」と教諭自身も思っていたという。

 教諭は男子生徒にも話を聞いたが、1日で聞き取りを終え、被害は解明されないままになった。

 教頭や担任からは、ネット拡散の訴えに関する質問や協議は「特になかった」という。当時の校長もネット被害の調査は指示していない。元校長は法廷で、男子生徒が「大ごとにしないでほしい」と話したなどとし、「様子を見るという判断をした」と述べた。

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 いじめは解消されなかった。男子生徒は11月21日、命を絶った。訴訟の和解では、聞き取りが不十分で事実確認の調査をしなかった点がいじめ防止法に反していたと県教委も認めた。

 訴訟記録によると、ラインに画像を投稿した生徒らは「あだ名などを言うことをやめたが、周りの人を止めることはできなかった」とされている。

 軽い気持ちの投稿の影響が、想像を超えて広がる拡散力。どこで誰が何を言っているのか、書かれた側には全容が分からない怖さ。そんなネットの一面を、生徒も学校も深く理解していた形跡はない。