イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻の「手をたずさえる塔」=十日町市松代(photo Nakamura Osamu)
 イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻の「手をたずさえる塔」=十日町市松代(photo Nakamura Osamu)
イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻(photo Roman Mensing)
鴻野わか菜教授

 ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで避難生活を送る現代アート作家のジャンナ・カディロワさん(40)と、ウクライナ出身のイリヤ&エミリア・カバコフ夫妻=米ニューヨーク在住=が、新潟県十日町市と津南町を舞台に開かれている「大地の芸術祭」に出展している。作品への思いを取材するとともに、ジャンナさんとカバコフ夫妻から、芸術祭の来場者向けにメッセージを寄せてもらった。2組の出展作のキュレーターを務める鴻野わか菜・早稲田大教授が依頼した。全文(鴻野教授訳)を紹介する。(十日町支局長・田島慶太)

 ウクライナ出身で、2000年の第1回大地の芸術祭から出展するカバコフ夫妻は、昨年完成した「手をたずさえる塔」(十日町市松代)という新作を今回出している。民族や宗教、文化を超えた世界のつながりを表現した。ロシアによる侵攻を受け、平和への祈りを新たにしている。

 イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻の「手をたずさえる塔」=十日町市松代(photo Nakamura Osamu)

 イリヤさん(88)は第2次世界大戦で疎開を経験した。旧ソ連の文化統制下では長年、自由な芸術活動ができず、ひそかに創作を続けた。

 新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大していた約2年前、カバコフ夫妻が妻有の地を選んで制作を提案したのが「手をたずさえる塔」だった。民族や文化の違いについて平和的な対話を促す意図を込め、世界の状況や人々の心に呼応してライトアップの色が変わる仕掛けになっている。

 鴻野教授は「苦しい人生を歩んできたイリヤさんが、美術を通じてみんながつながっていく願いを結実させた作品」と解説する。

 侵攻開始後、同作について夫妻は「困難な状況における人間の再生、平和への願い、手をたずさえること、戦争や敵意や憎しみではなく友情の象徴として位置づけたい」とコメントした。

 今回の芸術祭では、新作7点に旧作2点を合わせた作品群を「カバコフの夢」と銘打ち、一体的に展開している。

 ウクライナ出身作家ではこのほか、アレクサンドル・ポノマリョフさんが企画し、未来の生活を想像させる空間を表現した「南極ビエンナーレ-フラム号2」(十日町市室野の奴奈川キャンパス)も出展されている。

◆カバコフ夫妻メッセージ「困難な時代に大きな意味を持つ」

 「手をたずさえる塔」が日本にあることを本当にうれしく思います。そして、あらゆる意味で芸術が優れている越後妻有にこの作品があることが非常に大切なのです。
 越後妻有の住民の方々はアートを愛し、そこへ観客がやってきて、それがきっと何世紀も続いていくことでしょう。これこそ芸術、文化、知識、自然の真の目的です。私たちはこの文化的な喜びの美しいオアシスを作ってくださったすべての方々に感謝を捧げます。
 とりわけこの困難な時代、人々は孤独や病気や攻撃に苦しむこの時代にそれは大きな意味を持ちます。人間の人生は比較的短く、つらいことであふれていますが、越後妻有のようにすばらしい場所があると知るだけでも、人は気持ちが明るくなり、世界の未来は明るいのだと感じることができるのです。

=おわり=

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