誰にも言えない思いに静かに耳を傾ける「いのちの電話」。自ら命を絶とうとする人たちの声を365日、昼夜を問わず聴き続けています。相談員は無報酬。そのことにネット上では驚きの声も上がっていますが、理由があります。「新潟いのちの電話」を追った2011年の新潟日報連載「支える つながる 新潟いのちの電話」を再掲します(肩書や年齢は当時のまま)。

【2011/11/21】

 10日夜、新潟市中央区で「新潟いのちの電話」の相談員養成講座が開かれた。「自ら命を絶とうとしている人はつながりを求めている。皆さんが話を聴くことは大きな力になるんです」

 事務局長の渋谷志保子さん(70)が見守る中、出席した男女約20人の受講生は、長年自殺予防に取り組んでいる精神科医の男性による講義に耳を傾けた。

 相談員は、助けを求める人の話を聴き、生きる勇気をもってもらう役割を担う。いわば、孤独や孤立の中にいる人たちの「よき友人」。新潟いのちの電話には約170人がおり、365日、24時間体制で昼夜を問わず受話器を握り続ける。

 大半は女性で、男性は2割弱。「でもね、数年前までは1割に満たなかったんです。社会のため活動したいという男性が増えているように感じる」と渋谷さんは言う。主婦や勤め人、自営業、リタイアした人など経歴はさまざま。年齢層も幅広い。共通するのは「人の役に立ちたい」「自殺を減らすことに協力したい」との思いだ。

 任されるのは命にかかわる仕事だけに、誰でも務まるわけではない。「空いた時間があるから、という程度の動機ではやれない。相当な覚悟が必要です」と言い切る。

 昨年、新潟いのちの電話が受けた相談は2万1098件。このうち、自殺をほのめかしたり、具体的な方法まで考えていると言ったりしたのは1割に満たない1707件。9割以上は切迫する内容ではなかった。

電話相談員の養成講座に出席した人と談笑する渋谷志保子さん=新潟市中央区

 「けれども、いのちの電話にかけてきているのだから、助けや励ましを求めているのは確か。その後、良い方に向かうかもしれないし、最悪のことを考えてしまう可能性もある。どっちにいくか分からない以上、話を聴く相談員の責任はとても重いんです」

 何より求められるのは、困難な仕事でも必ずやり遂げるんだという強固な意志だ。中途半端な気持ちでは相談員の仕事は続かないとして、新潟いのちの電話はあえて高いハードルを構えている。

 肉体的にも精神的にも負担がかかるが、仕事への報酬はゼロ。相談員になるには1年間にわたる「養成講座」の受講が必須。しかも、受講料3万円などは自己負担。応募の際には数千字に及ぶ作文も課される。

 「『それでもやりたい』という人でなければ相談員はできない」と渋谷さんは断言する。他人を気にかける余裕はないとの感もある世知辛いこのご時世。「こんな条件を承知で応募する人がいるんですか」と問うと、「毎年20~30人程度が応募してくれる」との答えが返ってきた。

 「多少無理をしても他人の命を救いたいという人がこんなにいるんです。いのちの電話の活動を支えているのは間違いなく相談員。この人たちによって、共に生きる社会の輪が広がっていると思うんです」

(編集委員・諏訪敬明)

<電話相談員になるには>「新潟いのちの電話」は毎年希望者を募集しており、2012年度の応募は12月から来年2月中旬まで受け付ける。資格は23歳以上65歳まで。作文などの書類選考のほか、グループ面接、心理テストを受けた上で合否が決まる。

 審査に通った人は、4月から翌年3月まで行われる養成講座(1コマ2時間、計約40回)に出席し、修了した後に認定を受ける。養成講座では、専門家による講義のほか電話対応の実習などを受講する。欠席や遅刻があった場合は認定が見送られることもある。

 相談員になると、毎月2、3回の電話相談を担当し、年2、3回は深夜から未明のシフトが回ってくる。毎月1回の「継続研修」を受講することも定められている。

◎渋谷志保子(しぶや・しほこ)1940年11月、佐渡市(赤泊)生まれ。中央大文学部卒。64年、県立高校の教諭に。84年、「新潟いのちの電話」のボランティアスタッフとなり、相談員などを務める。2001年、教職を定年退職し、同年から事務局長。