「新潟県を元気にしたい」提言

【産業経済部門】優秀賞「新潟日報賞」
「新潟を日本のシアトルに」

飯高潤 嘱託職員

 今世紀に入って新潟県の産業は、繁栄しているのか、それとも衰退しているのでしょうか。地域に活力ある産業があるかどうかは様々な場面に表われ、地域が元気かどうかの大きな指標となります。ヒトで言えば、経済は身体の中の血管のようなものです。また経済によって循環されるおカネは血液です。そして産業は血液をつくる心臓や腸などの内臓である、と言っても差し支えないと思います。

 新潟というヒトが心身ともに健康で、活力に溢れた人物となるには、産業こそ活発に機能しなければなりません。人口減少が地方で大きな病となり、その症状が今、懸念されています。進学のため首都圏に行っても、希望するような会社が見つからないためUターンできない学生が多いと言われます。故郷で暮らしたいという若者にとって、魅力があって働き甲斐のある企業とは、どのような会社なのでしょうか。

 かつての高度成長期あるいはバブル崩壊の時代と比べても、あまり参考にはならないでしょう。今の若者にとって魅力ある企業とは、就職希望ランキングで取り上げられるような会社かと言えば、私は少し違うのではないかと思います。それは調査アンケートが不特定多数の学生を対象とするため、どうしても安定志向から大手企業や銀行がランクに入ってきます。少数派ながら、あまりランクインされないような中にこそ、実は魅力に富んだ企業があるように思います。

 県内の製造業において、優れた技術を持ちながら、堅実なモノづくりを行っているメーカーはたくさんあります。しかしながら一般的に、そのような企業に対し、Uターン志望の学生は就活せず、会社側も採用に悩んでいるケースが見受けられます。以前と違い、若い世代の価値観は大きく変わっています。今の若者にとって魅力ある企業とは例えば、三条のある金属用品メーカーはどうでしょうか。都市と田舎を問わず、アウトドア余暇の普及をうまく捉え、多様なブランド製品の供給とライフスタイルそのものまで提案しています。また先日、東京のテレビ番組で紹介されていた燕のメーカーは、家電不況と伝えられる中「あったら便利」という消費者ニーズを満足させるニッチ家電をつくっています。また、ますます高まる健康ブームに焦点を合わせ、米麹を原料とした飲料などを中心に、首都圏に直販店まで展開するようになった南魚沼の酒造会社はいかがでしょうか。こうした企業は、学生の希望ランキングになかなか入ってこないのですが、私が見る限り今の若者の感性と価値観にとても合っているのではないか、と思うのです。

 さて、これらのメーカーはもちろん短期間に成長し、ずっと好調な業績を上げてきた訳ではありません。小さな町工場から始め、創業者や職人さんの苦労とともに築き上げてきた長い歴史があります。ただし、ある共通点があって、後継者の社長さんが今、何をつくったら売れるのかをよく考え、商品化していく「マーケット・イン」の発想を持っているということです。あるいは社員にもそうした思考が徹底され、チームで市場競争力のある製品を開発する社内体制や環境ができ上がっているのです。

 県外にも目を転じてみましょう。北陸新幹線で結ばれた石川県金沢市に「アイ・オー・データ機器」という会社があります。この会社はUSBメモリや無線ルーターなどパソコン周辺機器では有名で、オリジナルな製品への人気と評価が高いメーカーです。以前、この会社の社長さんと話したことがあるのですが「我が社は大きくなっても石川県を離れなかったし、今後もそれは変わらない」とおっしゃっていました。また東北は仙台市に「アイリスオーヤマ」という会社があります。この会社はテレビCMでもうお馴染みなのですが、ここの強みは同様に、顧客がどんな家電製品を求めているのかという研究に熱心で、ベテランと若手が垣根なく意見を交わし、大手メーカーに対抗する製品をつくり上げています。しかもできるだけ安く消費者に提供したいため、商社を通さない独自の販売方法を取っています。

 こうした県内外の企業は、今の学生たちにとってとても魅力あるUターン就職先ではないでしょうか。大手であるとか上場しているかでなく、どれだけ元気でイノベーティブ(革新的)なモノやサービスを市場に提供しているか、に今の若者は敏感なのだと思います。

 会社の目標と自分の視線が一致し、個人の能力も伸ばせ、わくわくする夢や使命感が見つけられるような企業こそ、新潟にもっと増えて欲しいと思うのです。

 では、こうした元気で挑戦的な企業は、これから増えていくのでしょうか。私は新しい産業の成長可能性は、新潟にも十分あるのではないかと思います。今はまだ小さいけれども将来、大きく飛躍するような企業は、県内のどこかで頑張っているのではないでしょうか。燕三条には金属製品、長岡や柏崎には機械や精密部品の会社が集まっています。こうした産業集積のベースから、世の中に期待される新しいビジネスの芽を興していかなければなりません。

 県内ではビジネスプラン・コンテストも盛んになってきましたが、高校などの早い段階から、ビジネスマインドをもっと刺激する体験があって良いと思います。またビジネス図書館のようなものも面白いと思います。長岡の花火大会のスマホアプリを開発し、新潟にも拠点を設けた首都圏の若い社長は「高専時代、技術をビジネスにどう生かすかという点をもう少し学んでいたらと感じる、学校で学んでいることが社会でどう生かせるかという実践的な話を後輩にしてあげたい」と語っていられました。

 新産業の創出が盛んな米国では、インキュベータという起業支援施設が多く存在します。それらの施設では中に入居し、活動するエンジニアに対し、専門的な技術指導とは別にマーケットでどのような価値を創造すべきかという企業家精神(アントレプレナーシップ)の指南に力を入れています。企業の自助努力はもちろんですが、ビジネスモデルの発想豊かなイノベーション人材の育成は、県全体の課題ではないだろうかと思います。

 現在、本格的なインキュベータは県内で長岡にあるだけで「日本ビジネス・インキュベーション協会」が認定するようなインキュベータは「空白区」となっています。行政は公的扶助の立場から、インキュベータの整備を進める必要があろうかと思います。

 若者のUターン就職ができるだけ叶えられれば、地元で結婚し、手厚い子育て支援によって家族も増え、人口減少にも歯止めがかかるかも知れません。

 新潟の県民性が消極的だったのは事実かも知れませんし、県内の開業率の低さを嘆いていても仕方ありません。雇用を吸収する力が大きい製造業のことばかり述べてきましたが、最近、感心するのが県内外食産業の積極的な首都圏展開です。東京に近いとはいえ、果敢な事業判断は注目に値し、昔はともかく新潟の経営者はもう消極的でなくなったように思われます。

 私がかつて出かけた米国のシアトルは雪こそあまり降らないものの、新潟と似たような曇天が多い気候風土にあります。けれども、ここからはマイクロソフト、アマゾン、スターバックスなどの革新的な企業が生まれました。

 地方にあっても、新潟が新しいビジネスの世界で〈日本のシアトル〉のようになれることを願って止みません。

注)インキュベータ(incubator):
生まれた乳児を育てる保育器の意味。
転じて、独自の技術やユニークなビジネスアイデアを持つ起業家に、企業成長に至るまでのノウハウを提供する施設のこと。
施設はスペースの賃貸のほか、ソフト面での支援も行う。