新潟日報社が上越地域で展開した「未来のチカラ in 上越」の中核となる提言フォーラム「10年後 さらに輝く地域へ」が6月22日、上越市の高田公園オーレンプラザで開かれた。花角英世知事が基調講演を行い、本県の充実した「食」や、インバウンド(訪日観光客)を引きつける「雪」を軸とした観光戦略を報告した。上越、糸魚川、妙高の市民代表は、3市が知り合う場の必要性や、人工知能(AI)の時代に即した情報発信の在り方などを提言。3市長を交えたパネルディスカッションでは提言を基に、地域の連携や将来像について熱い議論が展開された。
地域間連携の必要性や、2次交通の充実などについて議論した提言フォーラム=6月22日、上越市
10年後の上越には協働の力が欠かせない。行政任せではなく、自ら動く仕組みづくりが必要となる。上越市はNPOや地域づくり活動が盛んだ。私自身も10年来、行政とNPOの協働に関わっている。(協働の)形は進化し、行政とNPOだけではなく、さまざまな連携が始まっている。
これだけ上越で盛んな理由は「言い出しっぺ」が動いているということ。チーム上越はまさにその集まりだった。雪室で貯蔵、熟成した食材を活用した商品開発などを展開する「雪だるま財団」や、空き家の減少に向けて
メンバーの活動するフィールドから見る10年後の未来への提言を挙げる。地域の財産を生かそう。関係人口、交流人口を増やそう。資源を保存して人を集めよう。地域の人と幸せになろう。食と職をつなごう。企業のチカラを地域に生かそう。
地域間の連携が必要というが、どう連携していいか分からない、3市の連携が見えないという意見が出た。そもそも上越の人は糸魚川、妙高を知らない。上越市内でも合併した旧町村部は分からないという声が多い。どう連携するかの前に、どう付き合うか、どう知るかが大事ではないか。
10年後の可能性を広げるためにまずは知り合いたい。3市が知り合う場をここ上越からつくれないか。まずはそれぞれの民間活動ベースで連携してはどうだろうか。
潜在力を生かした10年後の糸魚川に何が必要かについて考えた。糸魚川にはマイナーな魅力がある。マイナーと言うとイメージは良くないかもしれないが、特別な魅力が集まっているということ。「量より質」の身の丈に合った受け入れをし、「糸魚川スタイル」で満足度の向上に磨きをかけたい。
糸魚川には世界ジオパークや、親不知や弁天岩などの景色、ヒスイなど特別な魅力がある。「父ちゃんが捕って母ちゃんが売る」スタイルのカニで知られるマリンドリーム能生では、サザエ取り体験も好評だ。インストラクターは海洋高校の生徒で、生徒の成功体験にもなっている。
この地域でないとできないもてなしも重要だ。もてなしに関しては、全国の温泉地から選ばれる「温泉総選挙2018」で、糸魚川市からは二つの温泉(長者温泉、
糸魚川スタイルを確立するには、人口減少や高齢化の中で地域コミュニティーをどう形成するか課題がある。若い層の育成や郷土愛醸成とともに、市外の人材との連携も重要になる。訪れた人が地域を移動する2次交通にも課題がある。
長野県白馬村に滞在する旅行客を夕食時間帯に糸魚川へ運ぶシーフードシャトルバスの取り組みが続いている。上越は関東、長野、北陸、関西、中部を結ぶ「環状線」の軸になれる。新潟、富山、小松、松本など各空港の活用もできる。広域の視野を持ち一体でモノ、コト、ヒトを育てるため連携してできることから始めたい。
インバウンドについて市民の声から考えてみたい。まず妙高戸隠連山が国立公園になったが「だから何?」という声がある。地元の人間が価値を認識しておらず、外国人観光客へのアピールにつながっていない。次に、市営路線バスの時刻表が分かりにくく、接続も悪いという。既存交通資源が生かされていない。外国人観光客の立場からすると、行きたい場所があっても経路が分からない。
妙高には自然環境保護、情報発信や交通インフラの充実など課題があるが、私たちは大切にしたい価値観として「縁持ち、時持ち、心持ち」を掲げた。人と人のつながりやゆっくりと過ごせる時間、心持ちではおいしい食材を味わっていただく。お金持ちではなく、縁、時、心という価値が豊かな地域を目指すべきだ。
その価値観から理想の姿を見据え、未来への提言とする。一つ目は国内外への情報発信。AIやIoT(モノのインターネット)など時代に即して内容も変化させる必要がある。二つ目は自然を守り生かす地域。静けさを生かしたり、スキー以外の雪の観光資源化を進めたりし、自然環境の価値を見直すべきだ。最後に、若者が働き、住み続けたいと思える地域。若者の雇用、学びやすい環境、観光客との交流、2次交通の拡充など、10年後に向けてしっかり取り組むことが必要だ。
まずはやってみること。やってみれば新しい結果も出るし、ブラッシュアップしていくことが住みやすい上越地域になる。3市で連携し、よりよい地域にしていきたい。
<パネリスト>
村山秀幸・上越市長
米田徹・糸魚川市長
入村明・妙高市長
野本幸・NPO法人上越はつらつ元気塾理事・事務局長
清水靖博・能生町観光物産センター取締役
今田亜樹・妙高市地域づくり協働センター地域支援員
<コーディネーター>
木村隆・新潟日報社執行役員上越支社長
(本文敬称略)
木村 上越の提言では3市の連携は相手を知ることが大切だと強調された。
村山 上越市は14年前に14市町村が合併した。これも互いに知ることから始まった。まさに異質の共生だが、人口減少と超高齢化という変化が生じている。この時代を直視し、誰かとつながりながら人を育て、環境をつくる必要がある。3市連携の中でのまちづくり、物語を紡ぐ時代にきている。
木村 3市が互いに相手を知らない実感は何が理由なのか。
野本 地域づくりに関わっている人たちは地域やミッションをベースに動く。他地域を参考にはしても、連携する必要がない活動が多い。上越にいると日々、(周囲の人が)他の地域を知らないと感じる。まずは互いを知るところから始めたい。
木村 糸魚川ではそもそも連携が必要なのかという意見があった。
清水 例えば商売をする上で「3市だけではなく、もっと広い連携がいい」という声があった。連携するからには、今以上のメリットが必要だ。メリットを生むために、明確な目標設定をしなければならない。目標が曖昧なまま連携しても、結果として何が残るのかという意見だった。
木村 妙高は糸魚川に比べると上越と近い。連携の現状や課題は何か。
今田 「隣の芝生は青い」という言葉がある。妙高の人が同じファミリーレストランに行くのでも、わざわざ上越の店に行くことがあると聞く。青さはつまり「よく見える」こと。よく見えることを、3市で互いに引き出し合うような連携方法があるのではないか。課題や目標が共有できていないので、連携の必要性が今は見えない。今回をきっかけに共有できたら、どこを連携する必要があるのか見えてくると考える。AIが進化する未来を前提に、多様で自由な連携を3市でできたら面白い。
木村 拠点駅などからの3市の連携を広げるため、2次交通の充実も大切だ。
清水 糸魚川は谷が多く、幹線から外れると、車で随分行かないとたどり着けない場所も多い。2次交通は非常に難しい問題。ただ、不便さも糸魚川スタイルとして訴えていけないか。人の手が入っていないからこその景色というふうに、悪いところもいいふうに転換できないか。
木村 妙高はインバウンドが増えている。各所に誘導するには苦労も多いのではないか。
今田 2次交通の運行本数が少ない。乗り換えに時間がかかる。ダイヤが分かりにくいなどの課題がある。ただ、外国人が困っていることは、住民も同じく困っているはず。みんなが2次交通について課題を共有し、協働していくことが利便性の向上につながる。そうすることでインバウンドとのコミュニケーションの場もできていくと思う。
木村 糸魚川、妙高の2市はそれぞれ官民一体で観光地づくりを推進する「DMO」を組織している。県内では雪国観光圏(湯沢町など県内7市町村)などの取り組みもあり、DMOをもっと広域的にという提案もあった。
米田 交流人口の拡大は人口減少の中で避けて通れない課題で、地域の資源をどのようにアピールしていくかが大事。上越地方にはそれぞれの力があるが、限界を広げていくことも大切だ。それぞれで観光資源を磨き上げながら、3市一体となって対応できることを探し出していければいい。
入村 地域の諸課題に対し、私どもだけで解決できるかというところに問題の根本がある。DMOが動き出し、インバウンドや交流人口が拡大していく。そうした時代に県という全体の中でDMOとして作り上げ、世界に対して発信する必要がある。春にできるスキーと高田の桜をセットで売り込むという話もある。全部一括して勝負に出る時代だ。まず地元が結束して県の理解を得る。結果を求めて動く必要性を感じている。
今田 雪というのはとても大きな資源だ。雪を守るには山も川も海も必要で、妙高だけでは難しい。パウダースノーがなくなればインバウンドは来なくなる。住民自身が3市の価値を認識し、経済効果以外の効果を生み出せたら、自信と誇りを持てるようになるのではないか。
木村 糸魚川の提言では環状線構想の話があった。説明していただきたい。
清水 例えば糸魚川から白馬に行って、長野方面に回って妙高と上越を通ってまた糸魚川。一周3泊4日、4泊5日みたいなルート設定があればいい。山の方になかった海産物を糸魚川で味わって帰れる。満足度をプラスし、何十倍にも魅力が伝わるのではないか。道路や鉄道がつながっており、余計な設備投資はいらない。新潟空港、松本空港、富山空港など、空港をつなぐルートも可能だ。
新潟県は広いからこそ、個性あふれる地域がたくさんある。各地域が個性を持って輝いてくれる。
観光地の満足度について調べると、県全体は「大変満足」が20%。(「満足」「やや満足」でなく)「大変」が付かないと、なかなかリピーターにはならない。出発地や年代も見てみると、3分の1は県内客で、50代以上が中心になっている。そして、食べ物が魅力の中心になっている。
ブランド総合研究所の「食事がおいしい都道府県ランキング」では、新潟県は2016年の10位から18年は4位に上がっている。食に力を入れてプロモーションをしていきたい。なぜおいしいのかを物語としてブランド化し、上質な食を売り込んでいきたい。デスティネーションキャンペーンもある。「妙高・上越」エリアは「戦国時代の保存食が今でも残り、気候風土に合わせた発酵・醸造文化」として発信する。
インバウンドを見ると、妙高はオーストラリアの観光客が多い。スキー客が来ている。糸魚川は韓国が多い。富山空港から入国し、立山黒部アルペンルートを旅行する客が糸魚川で宿泊している。
中国マーケット向けのプロモーション動画では、「雪の新潟」に引きつけている。中国は22年に北京で冬季五輪があり、国としてウインタースポーツ人口を増やそうとしている。
外国人観光客に日本で関心のあるものを聞くと、やはり食は外せない。そして、日本人との交流を挙げる人も多い。文化体験などが挙げられるだろう。
新潟県内それぞれ個性があって、持っているものがたくさんある。これに地域に住む人たちが気づき、どう外に向かって表現するかを考えていかなくてはならない。上越地域は、NPOの活動など、コミュニティーの厚みを感じる。
人のつながりを使って外へ表現していく。そういう取り組みがもっともっと元気になるように、心から期待したい。
<冬季宿泊の8割外国人客 妙高市の旅館経営男性(77)>
赤倉で旅館をやっているが、冬季の宿泊は8割が外国人旅行者で勢いと重要性を感じている。3市の連携をさらに深め、地域の宝を掘り起こしていってほしい。
<謙信公はじめ歴史がある 上越市板倉区の自営業男性(73)>
上越には謙信公をはじめ歴史がある。将来にどう生かすかグランドデザインを考えるにあたり、ディスカッションで提言された「環状線」の話などが良かった。
<核になれる可能性感じた 上越市の公務員男性(22)>
糸魚川の提言の環状線構想が印象に残り、近県や各地域との連携で上越地域が核になれる可能性が感じられた。自分にも何ができるかを考えていきたい。
平成から令和へ、新しい時代へ変わったとき、新聞社にも新しい活動の在り方があるのではないか。「未来のチカラ」は、地域と地域、人と人とをつなげ、地域が連携することでそれぞれが輝いていくプロジェクト。記者、スタッフ全員が地域に出向き皆さんと膝詰めで話をさせていただいて、「地域の宝を再発見して、皆さんが誇りを持って地域を輝かせていこう」ということでスタートした。
北陸新幹線ができたことにより、上越には北陸というすごい後背地がある。4年後には福井・敦賀から関西へも窓が開かれる。上越は発展する潜在力を持っている。その思いでまずは上越地域でスタートした。第2弾は魚沼が中心。さらには各地域へとつないでいく。