第1弾 上越地域

[未来のチカラ in 上越]

集合 ご当地うまいもん

風土と情熱 銘酒醸す

新潟日報 2019/05/29

 酒蔵数が日本一の本県は言わずと知れた「日本酒王国」だ。その中でも上越地域の上越、妙高、糸魚川の3市には計20もの酒蔵があり、それぞれがこだわりの酒造りを行う。豪雪地ならではの清らかな伏流水、海と山に囲まれた豊かな自然、情熱を傾ける蔵人の努力が、うまい酒を生み出す。地域の風土が凝縮された一杯を傾ければ、至福の味が体に染み渡る。その魅力を新潟日報社が展開するプロジェクト「未来のチカラ」の一環として紹介する。

集合ご当地うまいもん 風土と情熱 銘酒醸す

上越

(1)頚城酒造
(2)代々菊醸造
(3)よしかわ杜氏の郷
(4)小山酒造店
(5)竹田酒造店
(6)加藤酒造
(7)新潟第一酒造
(8)丸山酒造場
(9)上越酒造
(10)田中酒造
(11)武蔵野酒造
(12)妙高酒造

妙高

(13)君の井酒造
(14)千代の光酒造
(15)鮎正宗酒造

糸魚川

(16)猪又酒造
(17)田原酒造
(18)加賀の井酒造
(19)池田屋酒造
(20)渡辺酒造店

<上越・妙高>
塩辛い保存食と冬の重労働 優しい甘みが愛される

 新潟の日本酒は「淡麗辛口」で知られるが、上越地域の酒は、その一言ではくくれない魅力を持つ。優しい甘みや豊かなコメのうまみ-。多彩な味わいで飲む者を酔わせてくれる。

 北陸新幹線と、えちごトキめき鉄道の妙高はねうまラインが停車し、上越地域の玄関口となっている上越妙高駅(上越市)。西口前のコンテナ型商業施設「フルサット」にある居酒屋「ご当地ソウル」は上越、妙高両市にある蔵元の代表銘柄のほとんどをそろえる。

 店主の桑原尚二さん(54)は「上越地域の酒は甘口が多いが、飲みやすく、うまいと評判。全部を飲み比べる人もいる」と客の反応を語る。出張のビジネスマンや観光客も訪れる同店。2、3銘柄しか知らなかった県外客も店で多様な味を開拓して帰っていくという。

上越、妙高両市の日本酒が並ぶ「ご当地ソウル」。どの酒を味わうか、迷うのも楽しい=上越市大和5

 上越地域の酒は甘みを持つものが多いといわれる。「全国有数の豪雪地が関係している」と教えてくれたのは、蔵人・杜氏とうじでつくる上越地区酒造研究会会長で、君の井酒造(妙高市)の杜氏、早津宏さん(62)。「昔は冬の保存食として塩辛い食べ物が主流だった。雪かきも重労働で、甘い酒が好まれたのだろう」と語る。

 雪は春には雪解け水となり、地域を潤す。良質で豊富な水は原料のコメを育て、仕込み水になる。酒造りの要だ。「生活するには厄介な雪だが、こうした風土だからこそ、銘醸地になった」と早津さんは話す。

君の井酒造のこだわり「山廃仕込み」に使う暖気樽(だきだる)を前に酒造りの思いを語る早津宏さん=妙高市下町

 県酒造組合高田支部長で、竹田酒造店(上越市大潟区)9代目の竹田成典さん(62)は「世界標準の酒であるワインにも勝る潜在力が日本酒にはある」と胸を張り、上越の地から世界を見据える。

 コメのうまみを生かしたふくらみのある味わいを追求。世界的なワイン品評会の日本酒部門にも積極的に挑戦し、高い評価を得てきた。「大手にはできない、小規模ならではの手間をかけた仕事をやり続けたい」と意気込む。

 毎年10月には、上越市で地域の酒が一堂に集まる「越後・謙信SAKEまつり」が開かれ、10万人を超える人が集まる一大イベントとなっている。竹田さんは「日本酒の消費が落ち込む厳しい時代だが、それぞれの蔵が個性を出しつつ、地域一丸となってさらに魅力を磨いていきたい」と力を込めた。

竹田酒造店9代目の竹田成典さんと歴史を感じさせる蔵。世界に挑戦する酒が醸されている=上越市大潟区

どぶろくも名物

 上越市では素朴な味わいが人気の「どぶろく」(濁酒)の製造も行われている=写真=。構造改革特区制度を活用し、2003年、当時の東頸城郡6町村(現上越市、十日町市の一部)が「どぶろく特区」に認定された。現在、上越市内ではいずれも牧区の農家民宿「ほほえみ荘」と「どぶろく荘」が製造、販売している。安塚区でも、高齢のため昨年引退した製造者のノウハウを引き継ぐ形で、農事組合法人「ながくら」が6月下旬の販売を目指し、製造に取り組んでいる。

<糸魚川>
複雑な地層に多様な水 5蔵元、風味それぞれ

 年代の異なる複雑な地層から湧き出す水が多彩な風味の酒を育む。糸魚川市は日本酒の蔵元が五つもある県内でも屈指の酒どころだ。世界ジオパークにも認定された特徴的な風土を生かし、五つの蔵元「五醸(ごじょう)」がこだわりの酒を醸している。

五つの蔵元の代表銘柄と糸魚川五醸の会の青木秀明会長(中央)、加賀の井酒造の小林大祐さん(右)、小坂功さん=糸魚川市大町2

 柔らかで優しい口当たりの酒、しっかりしたうまみがありながらもキレのある酒-。半径約5キロの限られたエリアに集中しながら、各蔵が醸す酒はバリエーションが豊かだ。その要因は水にあるという。

 「世界的にも珍しいフォッサマグナの地形から硬水、軟水、いろんな種類の水が湧く。その水を各蔵が吟味し、仕込みに使っている」。蔵元や酒販店でつくり、糸魚川の酒のPR活動などを行っている「糸魚川五醸の会」の青木秀明会長(67)は特徴をこう語る。

 加賀街道、信州とを結んだ交易路の塩の道があり、交通の要だった糸魚川は宿場として栄えた。宿が多ければ、酒の消費も増える。青木会長は「海と山が近く、おいしい食材も豊富。酒とともに楽しむ文化が息づいてきた」と胸を張る。

 地酒の魅力を発信する活動も盛んだ。2014年には「地酒で乾杯宣言」を地域ぐるみで発表。毎月14日を「地酒で乾杯の日」とし、協力店が地酒の振る舞いなどを行っている。

 糸魚川の酒造りは神話の時代にさかのぼるともされる。県酒造組合が大正時代に発行した「新潟県酒造誌」には奴奈川姫が大国主命(おおくにぬしのみこと)を稲で醸した酒でもてなしたのが本県の酒造の起源と記されている。

 五つの蔵はいずれも小規模だが、それを生かし、蔵人自ら酒米を全量生産している蔵もある。糸魚川市で酒の卸会社を営む小坂功さん(59)は「熱心に酒造りに取り組む蔵元の人となりも知られており、根強いファンが多い」と語る。

 糸魚川は16年12月に起きた大火からの復興途上だ。大火では老舗の加賀の井酒造も消失。元の地に再建し、2回目の酒造りが終わりつつある。第18代蔵元の小林大祐さん(37)は「新しい蔵での作業は、まだ手探り」と苦労を語りながら「これからも加賀の井らしい酒を多くの人に届けていきたい」と力を込めた。

再建した加賀の井酒造の蔵。「まちなかにある蔵を身近に感じてもらいたい」との思いで、いつでも外から作業の見学ができるようになっている=糸魚川市大町2