[未来のチカラ in 魚沼]
南魚沼市のJR浦佐駅を会場に、魚沼地域の美酒・美味を集めたイベント「米と酒 魚沼の陣」が近づいてきた。新潟日報社が展開するプロジェクト「未来のチカラin魚沼」のメインイベントの一つだ。魚沼地域の酒蔵やクラフトビール、ワイン醸造所の14企業が集結。もう一つの楽しみは食だ。会場には魚沼コシヒカリの新米や、清流魚野川で育まれたアユの塩焼きなど美味が並ぶ。ステージイベントでは、多彩なゲスト陣が、食と酒、雪国の風土にまつわるトークを繰り広げる。9月22日の本番を前に「魚沼の陣」に出演・出店する人たちから雪国の食の魅力を聞き、併せてお薦めの食材を使った料理を紹介してもらった。(長岡支社・藤井直人)
「米と酒 魚沼の陣」の懸垂幕が掛かった浦佐駅の駅舎=南魚沼市
「米と酒 魚沼の陣」はJR浦佐駅(南魚沼市)の構内1、2階で展開する。
1階では、魚沼の酒蔵がブースを開き、自慢の酒の飲み比べができる。また十日町・松之山温泉の名産「湯治豚」や、南魚沼市の農家レストランによるおつまみが提供される。
2階では、クラフトビールとワイン醸造所、フードブースが出店。JAみなみ魚沼は、収穫したばかりの魚沼コシヒカリを提供。郷土食「きりざい丼」も個数限定で販売される。
駅に隣接する屋外会場では、魚野川で育まれたアユの塩焼きや、十日町市名産のそばやジビエ料理を楽しめる。
また1階ステージでは多彩なトークイベントが繰り広げられる。地元の「大の阪の会」による祝い歌の「天神囃子」「石場かち」がオープニングを飾る。
「ハイクオリティーな食の話」と題して、雑誌「自遊人」の岩佐十良さんと、イタリア料理一つ星店シェフで十日町市出身の村山太一さんが語り合う。村山さんの料理も数量限定で振る舞われる。NHK大河ドラマ天地人に出演した俳優の加藤清史郎さんも駆け付け、ドラマや魚沼の思い出を熱く語る。
この日、駅2階では、「魚沼の陣」に先立ち、南魚沼市と魚沼市の観光情報が入手できる観光案内所「MYU(ミュウ)」の開所式も行われる。新幹線を模したロボットとの記念撮影や鉄道模型走行、子ども駅長制服体験、鉄道写真展などが楽しめる「浦佐駅まつり」も開催される。
東京・目黒でミシュランガイド一つ星に輝くイタリアンレストラン「ラッセ」のオーナー・シェフ村山太一さん(44)は、十日町市出身だ。イタリアでは、三つ星店で副料理長を務めた経験も持つ。世界を舞台に腕を振るってきた村山さんに、雪国魚沼の食材の魅力について聞いた。
「雪国の美しい水がおいしい食材を育む」と語る村山さん=東京都目黒区のレストラン「ラッセ」
-魚沼の食について感じることは何ですか。
魚沼エリアは豪雪地。そこから醸し出される柔らかな水が、良質な山菜や野菜を育むのではないか。山菜は他地域に比べ味が濃く、色もきれい。山にコンロを持ち込み、採れたてのタケノコで、みそ汁を作るとアクがほとんど出ない。
山菜は春まで雪深い下に埋もれているが、その雪をなめてみると、苦い。雪は大気中のほこりなどから、山菜を守っている。だから雪の少ない地域に比べ、魚沼の山菜は、えぐみが少ないとされる。東京で売られている山菜はハウス栽培が多い。農薬の味がするものもある。湯がくとアクだらけでとても苦い。
-店では魚沼のどんな食材を使っていますか。
津南のトウモロコシや「つなんポーク」、「妻有ポーク」などだ。中でも「つなんポーク」は、豚臭さがない。味のアミノ酸度を高めたところで出荷される。脂が甘く素晴らしい食材だ。山菜は新鮮なものが十日町から送られてくる。
-日本酒とイタリア料理の相性はいかがですか。
イタリア料理の基本はトマトソース。経験的にトマトは45分から1時間煮るとアミノ酸の効果で、味が良くなる。和食は、かつお節や干した昆布からアミノ酸を抽出して、だしを取る。同じだ。和食に日本酒が合うように、イタリア料理とも相性がいい。
-具体的にどんな料理が合いますか。
米を煮て作るリゾットなどはどうか。チーズリゾットは濃いめの味。淡麗辛口の酒が合う。熱かんがすしや刺し身に合うように、生魚を使うカルパッチョなどとは相性がいいはずだ。
-魚沼も含め新潟の食の未来をどう見ますか。
世界のトップを狙えるレベルの料理人が新潟で生まれ、東京で活躍中だ。そんな人たちが現在、県内の料理人のグループと定期的に研修を重ね、食のレベルを高める試みをしている。県内からもいずれ世界と競い合える店も現れるだろう。
オクラは少し塩を入れたお湯でゆでる。ミニトマトは4分の1カットにする。ナスは一口大に切り、素揚げする。バジルは洗い、葉だけちぎり、30秒熱湯でゆで、氷水に放つ。
ミキサーにバジル、塩、エキストラバージンオリーブオイルを入れ回しピューレ状にする。「つなんポーク」は表面に塩を振り、エキストラバージンオリーブオイルを適量入れたフライパンでソテーする。オクラ、つなんポークを一口大に切り、盛り付けバジルソースを添える。
南魚沼市大沢の宿泊施設「里山十帖」。「魚沼の陣」に登壇する岩佐十良さんが経営し、雪国の里山でしかできない体験を提供する宿として、国内はもちろん、海外からも多くのゲストが訪れる。自然の恵みをふんだんに使った料理を作るフードディレクター、桑木野恵子さん(38)に、魚沼の食と酒との相性や、食材の魅力を聞いた。
南魚沼に来て以来、山菜の魅力にとりつかれたと語る桑木野さん=南魚沼市大沢
-魚沼の食と酒との相性はどうでしょうか。
魚沼には発酵食の文化がある。米を発酵させて造る日本酒との相性は抜群だ。例えば、塩、
-魚沼の食材の魅力はどこにありますか。
東京から南魚沼市に移って6年目。山菜の魅力にとりつかれた。ノートに記したものは60種類以上。雪の下から顔を出したフキノトウの甘み。小さなツクシのほっくりした、まるでイモのような味。採れたてのウドの滋味。ここの山菜からは五味が感じられ、すべてがジューシーで水の味がする。
山菜は春にだけ食べるものではない。夏に咲くウドの花は、ハーブのように使い、つぼみは同じ頃に旬を迎えるズイキと一緒に料理もする。魚沼では、1年を通じて山菜の変わりゆく姿が見られ、味わえるぜいたくさがある。1年の季節を細かく分けた二十四節気と七十二候を感じられる。ここは食材の宝庫だ。
(1)ナスは一口大に切り、太白の油で焼き上げる。
(2)手で裂いた「八色しいたけ」、マイタケは熱したフライパンで香りがつくまで乾
(1)と(2)をボウルに入れ、調味料Aとさっと混ぜ、ミョウガ、大葉、大根おろしなどお好みの薬味を添える。
子どものころ夏の時季のおやつは、畑で取れたキュウリやトマト。井戸水で冷やした野菜は、本当においしかった。春になれば、庭では山菜が採れた。本当に豊かな暮らしだった。結婚、出産を経て現在は新潟市に住んでいる。スーパーで売られている野菜がおいしくないと言わない。でも、自宅で採れたばかりの野菜や山菜に勝るものはない。母から習った古里の味は、夏に旬を迎えるイトウリのサラダ。しゃきしゃきして夫の大好物だ。母となった今、子どものころの体験が大切だと痛感している。物のありがたみや自然への知識が身に付いた。魚沼で育った環境を私の子どもにも教えてあげたい。
魚沼コシの特徴は甘み、粘りがほかの地域のコメと大きく違う。収量を抑え食味を追求してきた結果だ。コメの味を決めるのは、稲穂に栄養分をためる8月の登熟期。魚沼の気候は平野部に比べ、昼夜温度差が大きく、8月下旬の1日の平均気温は24度と理想的環境だ。魚沼地域ではかつて、冬季、都市部への出稼ぎが多かった。自前のコメを都市部へ持ち込み、うまさが口コミで広がった。都市部に流通ができなかった時代、魚沼コシは「幻のコメ」とまで言われた。他県では「魚沼コシに追いつけ追い越せ」とばかりライバル品種も台頭した。基本の土作りを忠実に行い、今後もトップブランドを維持したい。