第3弾 長岡・見附・小千谷

[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]

提言フォーラム詳報 2

パネルディスカッション・地域の現状と課題

産業を磨き、地域に輝きを

栗井英大・長岡大教授 住民からの提言で、地域産業の現状と課題が示された。どう受け止めたか。

磯田達伸・長岡市長
磯田達伸・長岡市長

磯田達伸・長岡市長 長岡では、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった技術導入の大きな流れに、製造業がいまひとつ対応できていない印象を持っている。
 新型ウイルス感染拡大を受け、日常的な営業活動などでもリモートワークが可能だと気付く企業が出てきた。今後も企業活動の半分以上がリモートで継続されるだろう。長岡の産業界でも対応が一つのテーマになる。ポストコロナの時代は「健康な生活」が注目される。ものづくりとともに、健康関連産業をつくっていけるかが、長岡の大きなテーマになると思う。

久住時男・見附市長
久住時男・見附市長

久住時男・見附市長 見附のニット産業は、産地全体と各社それぞれのブランドを持ち、試行錯誤を重ねてステータスを築き上げてきた。他にはない素材を使い、全て日本製にこだわり、生産量が少なくても利益を出せるよう取り組んでいる。
 産地とは、住民が目利きであり、製品に誇りを持つことだと考えるが、見附では市民の理解が弱かった。地域全体で産地を応援することにつなげるため、業界では製造現場を公開するオープンファクトリーを実践するなどしている。地域ブランド化を行政としても支えたい。

大塚昇一・小千谷市長
大塚昇一・小千谷市長

大塚昇一・小千谷市長 小千谷は鉄工電子関連の製造業が基幹産業だが、米中貿易摩擦や新型ウイルスの影響で出荷額が下降線をたどっている。世界的な展開をする企業が多く、外部から影響を受けにくい経営基盤を持つことが課題だ。
 一方、伝統産業の小千谷縮は、着物を着ない時代になり、業界が洋装や生活用品への転換を図っている。来年の東京五輪・パラリンピックを活用し、多くの人にPRしたい。錦鯉は市の魚や県の鑑賞魚として認知度を高め、さらに「国魚」として認められるよう業界を挙げて頑張っている。

宮下玲子社長
宮下玲子社長

宮下玲子・小林社長(鋳造業) 長岡の製造業は人材不足を回避するため、製造ラインへのIT、IoT、AI導入が必要不可欠になっている。多額の費用が掛かるから、後継者のいない企業は廃業し、企業数が年々減っている。リモート勤務ができる今こそ、都心との交通の便が良い長岡は、企業誘致のチャンスだ。企業が集まれば人が増え、産業や商業が発展する。
 地場の企業は高い技術を持っているが、アピールの苦手なところが多い。例えば9月開業の道の駅「ながおか花火館」の近くなど、人が集まる場所に製品を展示、購入できるスペースをつくってほしい。

坂田政元社長
坂田政元社長

坂田政元・マックスニット社長(ニット製造) アパレル大手の経営破綻や店舗の大量閉鎖が起き、ウイルス禍で対面販売の店が姿を消している。大量生産、大量消費の時代は完全に終わり、若い人は購買欲が薄れている感じを受ける。どのような物を作れば若者の心をつかめるのか調べてもつかみ切れなかったが、多様化していることは確かだ。対応するため、必要なものを必要な時に、必要なだけ作れる工場にしないと生き残れない。

片岡太郎代表
片岡太郎代表

片岡太郎・大家養殖場代表(養鯉業) 錦鯉は国内では本県と広島、国外では中国とインドネシアが大きな産地だ。本県では多くの生産者がさまざまな品種を育てている。同じ品種の中にも幾多の個性があり、その点を海外の人たちは認めている。
 ただ、海外でも良質な錦鯉が出始め、欧米には中国からも流れている。中国側は「中国発祥」と言い始めているが、錦鯉は長岡市山古志地域や小千谷市などにまたがる「二十村郷」と呼ばれた場所で、突然変異によって生まれた。きちんと説明していかなければならない。

栗井英大教授
栗井英大教授

栗井教授 産業をPRするには製造現場に来て、どういう技術や工夫があるか直接見聞きしてもらうことで価値が伝わることもある。だが、学生は何をつくっているのか知らず、就職の選択肢に入らない。情報発信や認知度向上に向けてどう考えるか。

横山和輝社長
横山和輝社長

横山和輝・プロッセル社長(教育・学習支援業) 今春まで長岡高専の学生だった経験から言うと、地元の中小企業の情報は大学の掲示板に貼ってあったり、ファイルにとじてあったりする。スマートフォンで情報収集する今の学生には伝わりにくい。新型コロナウイルスの感染拡大で自宅にいる時間が増えているからこそ、スマホや学生情報システムで分かる仕組みがあるといい。

久住・見附市長 ニット業界では、学生向けのインターンシップを行っている。ブランドや働き手の熱意が伝わり、参加した首都圏の若者2人が就職するなど、成果が出ている。消費者向けにも、各社の製品を一斉に売り出すニットまつりやオープンファクトリーを企画している。

坂田社長 インターンシップの学生はニット製作の現場が初めてで、機械を見て喜々としていた。3日間ほどでセーターなどの商品作りを体験してもらった。将来アパレル業界に進み、取引先になってくれたらいい。

宮下社長 当社では生産管理システムにタブレット端末を使い、経験の少ない社員でも端末の指示で製品を作れるようにしている。若者はスマホになじんでおり、端末による指示の方が作業しやすい。

片岡代表 新型ウイルスの影響で海外の顧客が来日できず、ウェブ上で錦鯉の品評会やオークションができないか検討している。来られなくても商談できる仕組みをつくりたい。学校とも協力し、講師を派遣するなどして錦鯉の普及もできればいい。

細貝信和・サンシン会長
細貝信和・サンシン会長

細貝信和・サンシン会長(テープ研磨装置製造) IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が台頭し、今は時代の大変革期。対応するには、最先端技術を持つ大学や高専との協力が必要だ。学界の情報や技術と、地元の製造業が連携すれば、ものづくりのベンチャーを起こすことも夢ではない。
 学生側も「こういうものをつくった」というだけで終わらせないのが課題だ。経営ノウハウの伝授や販路開拓の協力など、地元企業の力添えを生かしてほしい。今こそ産学のつながりを生かすチャンスだ。

磯田・長岡市長 長岡では、高専と企業が協力し、廃棄物を食べるミズアブを育てて飼料として取り出す仕組みに挑戦している。試作した装置よりも、企業の力を借りることで磨きがかけられた。今後は長岡の酒蔵から出る酒かすをミズアブに食べさせ、肥料として水耕栽培に生かすなど地域の中で循環する技術に仕立てたい。
 工業の高い技術と若者の創意が結び付き、一つの物語が生まれている。そういったプロモーションにも力を入れていきたい。

桑原大輔キャップ
桑原大輔キャップ

桑原大輔・新潟日報長岡支社報道部キャップ 産学連携を効果的に進めるためには、企業のニーズをくみ取り、研究者側が強みとする部分とうまく結び付ける第三者の存在が必要だ。行政も専門性を高め、マッチングの役割に力を発揮してほしい。

栗井教授 3市は未来に向け、どのような展望を持っているのか。

磯田市長 3市は、ものづくりの技術があり、健康な生活を営むことができるという点で共通している。本県のど真ん中にある3市のポテンシャル(潜在能力)を生かして前に進みたい。社会課題を発見し、解決策を提案するデザイン思考に注目している。ユーザー目線で何が求められるのかという発想が重要だ。
 新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが普及し、企業の拠点や居住の地方分散の受け皿としての価値も出てきた。若者の力を引き出し、ポストコロナの大きな展開ができるよう布石を打っていく。

久住市長 全世帯へのWi-Fi(ワイファイ)普及を目指している。ロボット関連の会社に話をすると、興味を持ってもらえた。環境さえあれば、その分野の知見やノウハウを持った人が集まるはずだ。そのための情報インフラや受け皿を整備したい。
 「健幸都市」やSDGs(国連が採択した持続可能な開発目標)といったイメージも発信し、ニットのブランドと相乗効果が出るような形も考えたい。

大塚昇一・小千谷市長 高校や中学でのキャリア教育に力を入れてきた。ことしは若者向けに地域や企業の情報を送るスマホアプリを開発した。何とか地元の人材を地元に就職させたい。産業、学校、行政が一緒になって取り組みを進めていきたい。

栗井教授 情報発信、人材育成、産学連携といった提言を生かし、地域をさらに輝かせていただきたい。

<パネリスト>
 磯田達伸・長岡市長
 久住時男・見附市長
 大塚昇一・小千谷市長
○栗井英大・長岡大教授
○宮下玲子・小林社長
○坂田政元・マックスニット社長
○片岡太郎・大家養殖場代表
 桑原大輔・新潟日報長岡支社報道部キャップ
(○は提言メンバー)


提言フォーラム詳報 1.市民からの提言