第7弾 佐渡

里山は今 世界農業遺産10年

新潟日報 2021/11/09

 トキとの共生を目指し、豊かな里地里山が広がる佐渡市。今年、世界農業遺産(GIAHS=ジアス)に認定されて10年を迎えた。島内ではトキがすみやすい環境に配慮するなど生き物を育む農業への取り組みが進む。佐渡の歩みを振り返り、課題や将来像を探る。

<1> 棚田

島の農法伝える象徴 維持、地域活性化へ道探る

 佐渡の伝統的な農業を今に伝える象徴的な存在が、市内に点在する棚田だ。観光や教育、佐渡金銀山の歴史にも関わる島の資産だが、耕作する農家の負担は大きい。棚田をいかに維持し、地域の活性化につなげられるかが問われている。

 佐渡では17世紀ごろ、金銀山の開発に伴って人口が急激に増加したことなどを契機に、海岸段丘の上や険しい山地に棚田が作られた。水源近くの水を使用でき、寒暖差が大きいことから質の良い米ができるとされている。集中豪雨の際には土砂崩れや洪水を防ぐ。

 一方で、棚田は大型の農業機械を使用しにくいことや水田が住宅から遠い高地にあることなど、農作業の負担が大きい。棚田を守るため、2019年に整備されたのが「棚田地域振興法」だ。棚田地域として指定を受け、棚田を活用したイベントや交流活動を行うことで、交付金の加算などの支援を受けられる。

 現在、指定された棚田は佐渡市に104カ所ある。その中で、活性化事業に取り組んでいるのはわずか8カ所にとどまり、棚田地域振興活動加算を受けているのは1カ所のみ。2012年の佐渡棚田協議会の発足からほとんど増加していない。

 同協議会の大石惣一郎会長は「交流活動の部分に、行政や民間のサポートがあれば、支援を受けられる地域が増えるのでは」と話す。佐渡市内の棚田で耕作する農家には高齢者も多く、首都圏から消費者を呼んだり、直売に取り組んだりするノウハウを持つ地域は少ない。

 棚田は自然にできた景観や遺跡とは異なり、耕作をやめれば消滅してしまう。危機が迫っているが、維持への取り組みは進んでいない。「棚田も金銀山を説明する大事な要素のはず。世界文化遺産にはなったが棚田は消えている、という状態では恥ずかしい」と現状に疑問を感じている。

 近年、棚田の保全に取り組み始めた地区が出てきた。指定棚田地域の一つ、歌見では昨年から、棚田を生かして地域を活性化しようと、地元の有志約10人が「UKUU」を結成。ビデオ会議システムを使って島外の人に稲刈りの様子を紹介するバーチャルツアーを開くなど、交流活動を実施している。

 眼下に海を望む歌見の棚田は、同所と近隣の虫崎、黒姫の住民が米作りをしているが、近年は高齢化などで耕作をやめる住民も増えていた。UKUUのメンバーの竹林雅喜さん(28)は「棚田があるこの地域の魅力を多くの人に知ってもらいたい」と話している。

棚田で行われたバーチャルツアー。稲刈りの様子を発信した=佐渡市歌見

環境、景観の保全など評価

 ジアスは国連食糧農業機関(FAO)が2002年、地域の環境を生かした伝統的な農業や農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化などを一体的に維持保全して次世代に継承する目的で創設した。日本では11年、佐渡市が「トキと共生する佐渡の里山」として、石川県能登地域の「能登の里山里海」とともに初めて認定された。

 佐渡市はトキとの共生を目指し、農薬や化学肥料を減らし(用水路)や魚道、ビオトープなどを設けてトキの餌となる生き物を育む農法を導入。環境に配慮して栽培された米を市が認証する「朱鷺と暮らすさとづくり認証制度」を07年に立ち上げた。認証面積は20年、1044ヘクタールで、市の主食用水稲作付面積の約2割に当たる。

 環境保全型農業の実践のほか、棚田の景観保全、五穀豊穣ほうじょうなどを祈願する鬼太鼓をはじめとする郷土芸能の継承が農村コミュニティー形成に寄与していることなども評価された。

 農林水産省によると、現在、世界22カ国62地域がジアスに認定され、日本は佐渡市など11地域で認定を受けている。

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