第1弾 上越地域

鉄路再生 トキ鉄開業5年

新潟日報 2020/08/07

 上越地域の暮らしを支えてきた「えちごトキめき鉄道」(上越市)が、2015年の開業から5周年を迎えた。北陸新幹線の並行在来線としてJRから経営分離され、厳しい経営が続くが、19年秋に就任した公募社長・鳥塚亮氏の下、鉄路再生への挑戦を続けている。ふるさとの鉄道を守ろうと、沿線住民たちは身近な駅を拠点に、まちづくり活動を盛り上げている。開業5年で培ったトキ鉄の「チカラ」を伝える。

<上> 公募社長の挑戦

在来線愛が発想の源に 観光列車や「石」販売も

 日本海に沈む夕日が、有間川駅(上越市)をオレンジ色に染めている。普段は無人の駅に、にぎやかな声が響いた。

 えちごトキめき鉄道は8月1日、開業5周年を記念して夕日とビールを楽しむイベント列車を運行した。有間川駅に降り立った乗客たちは、駅舎に用意されたつまみの唐揚げを味わったり、日本海をバックに記念撮影したりしてローカル線の旅を満喫した。

 2019年9月に就任した鳥塚亮社長(60)は収益確保を目指し、イベント列車の運行からカレーやマスクの販売まで、さまざまなアイデアを打ち出している。

 「上越地域の活性化のため、トキ鉄が地域の広告塔になれれば」。新社長は決意を口にする。

えちごトキめき鉄道の車両をバックに、ローカル線存続への思いを語る鳥塚亮社長=上越市の直江津運転センター

 東京生まれ、東京育ち。コンクリートだらけの大都会で子どものころから、ローカル線にあこがれていた。大学卒業後は航空業界でキャリアを積んだが、副業で鉄道DVDの制作会社を設立するほど「鉄道愛」は募り続けた。

 2009年、転機が訪れた。「ローカル線を守る新たな挑戦をしたい」と、千葉県・房総半島の山間部を走る「いすみ鉄道」の社長公募に応じ、就任した。

 人気キャラクターのムーミンをあしらった列車の導入や、枕木の形をしたおかきなどオリジナルグッズを販売。存続の危機に直面していた赤字鉄道を再生させた。

 観光列車と物販の強化で収益を確保し、地域の鉄路を守る-。トキ鉄でもこの基本戦略は変わらない。

 リゾート列車「雪月花」は最短20分で完売するほど好調で、19年度の売り上げは1億1千万円に上った。

 アイデア社長の真骨頂とも言えるのが、線路の石の販売だ。今年6月、中郷区の二本木駅や銚子電鉄(千葉県)などの線路の石を缶に詰め、1セット1650円でネット通販したところ、1カ月とたたずに250セットが完売した。

 「若い社員たちに、売ろうと思えば石でも売れることを伝えたかった」。赤字との格闘が続くトキ鉄に、“鳥塚イズム”を徐々に浸透させている。

<とりづか・あきら> 1960年東京都生まれ。明大卒業後、大韓航空や英航空大手「ブリティッシュ・エアウェイズ」に入社。成田空港で旅客・運行部門を担当する。副業で鉄道のDVD制作会社を設立。2009年に「いすみ鉄道」(千葉県)の公募社長に就任し、18年まで赤字ローカル線の再建に努めた。19年9月から現職。

 トキ鉄の19年度の収支は線路や駅舎など固定資産の減損損失もあり、赤字(純損失)は過去最大の62億5400万円となった。新型コロナウイルスの影響で、観光列車も打撃を受けている。

 難局打開へ、鳥塚社長は駅に仕事場や商業施設などさまざまな機能を持たせることで、新たな需要を掘り起こそうと考えている。

 いすみ鉄道時代から役員と交流があり、仕事と余暇を組み合わせたワーケーションの推進事業に取り組む「ウェルビーイングジャパン」(本社東京)が今年2月、妙高市の妙高高原駅に、テレワーク環境を整備した仕事場「コワーキングスペース」を開設した。

有間川駅で記念撮影するイベント列車の乗客たち=2020年8月1日、上越市

 同社の野口茂一社長(43)は「駅を拠点としたワーケーションの成功モデルをここで作りたい」と意気込む。今月中にも、地元の食材を使ったカフェをオープンする予定だ。

 「駅にもう一度、人を呼び込む仕掛けが必要だ」。鳥塚社長は壮大なプランを温める。「例えば直江津駅にスーパーマーケット、高田駅に行政の出先、上越妙高駅に医療機関を誘致できないか」。描く未来への路線図は、鉄道経営の先に、まちづくりへと続いている。

<えちごトキめき鉄道> 2015年3月、北陸新幹線の長野-金沢間開業に伴い、並行在来線としてJRから経営分離された信越、北陸両線の一部を引き継いで開業した。県や上越、糸魚川、妙高3市などが出資し、上越市の直江津駅に本社を構える。旧信越本線の直江津-妙高高原(妙高市)間の37.7キロを「妙高はねうまライン」、旧北陸本線の直江津-市振(糸魚川市)間の59.3キロを「日本海ひすいライン」として運営している。

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