列車が折り返し線で進行方向を変える「スイッチバック」で知られる、えちごトキめき鉄道の二本木駅(上越市中郷区)。1910(明治43)年建築のレトロな駅舎に、コーヒーの香りがただよう。
待合室を改装してオープンした喫茶スペース「なかごう さとまるーむ」。2019年4月にトキ鉄から駅の管理を委託されたNPO法人「中郷区まちづくり振興会」が、誰でも気軽に集える場所として運営する。
「二本木駅は地域の資産。生かさない手はない」と、振興会の岡田龍一理事長(44)。「地元の常連客に加え、県外からも鉄道ファンがやって来てくれる」と手応えを口にした。
駅を核としたにぎわいづくり。ただ、岡田理事長は「電車に乗るという駅本来の役割でにぎわいをつくるのは限界がある」と、厳しい現実も指摘する。
マイカー中心の生活スタイルと人口減少でローカル線の利用者は減少している。「妙高はねうまライン」「日本海ひすいライン」の1日平均乗車人員は2019年度計9308人で、2路線合わせても1万人に満たない。
二本木駅の「さとまるーむ」で談笑する中郷区まちづくり振興会の岡田龍一理事長(左)。駅を生かした地域活性化を目指している=上越市中郷区
今後も乗客の減少が避けられそうもない中で、どうやって駅を守り続けるか-。沿線駅はいま、公民館のような地域住民の活動拠点となることで、再生への道を模索している。
新井駅(妙高市)では、地元の美術愛好家たちが待合室に自慢の作品を展示し、列車を待つ乗客の目を楽しませている。
「ポスターばかりで殺風景な待合室を変えられないか」。新井駅の東條公男駅長(63)が、美術が趣味の知人に相談。これをきっかけに、書道やちぎり絵などの愛好家たちが18年7月、「駅長とゆかいな仲間たち」を結成した。現在は20人が登録し、待合室を舞台に自身の作品を発表している。
グループのまとめ役を務める吉越清子さん(62)は「子どものころ、駅は違う世界へ旅立つ出発点で、輝いていた」と、思いを語る。黄金時代を知るからこそ、「活動を通じて駅を元気にできれば」と強く願っている。
7月22日には、メンバーたちと東條駅長が協力して作品の入れ替え作業を行った。「発表の場ができて励みになっている」。待合室に明るい声が響いた。
新井駅の待合室に作品を飾る美術愛好家たち=妙高市
「駅は絶対に無くしてはいけない施設だ」。名立駅(上越市名立区)の利用促進に取り組む住民団体「名立駅マイ・ステーション作戦実行委員会」の事務局を務める三浦元二さん(69)は、力を込める。
高田方面に通学する高校生や通院する高齢者らにとって、トキ鉄は他の地域と同様、日常生活に欠かせない交通インフラだ。
三浦さん自身も、高校時代は国鉄の旧信越本線を利用して通学した。人でごった返す名立駅が青春時代の原風景だ。
だが、半世紀たち、利用者の減った名立駅は無人駅となった。駅の存続に危機感を抱いた三浦さんたちは11年8月、「私たちの駅は私たちが守り、つなげる」を合言葉にマイ・ステーション作戦を立ち上げた。
清掃や植栽に加え、コンサートを開くなど駅再生のモデルケースともいえる活動を続けてきた。
「これからも名立というまちで安心して暮らしていくために、駅を次の世代に残していかなければならない」と三浦さん。活動が10年目を迎えることを記念し、9日に、駅で演奏会やこれまでの歩みを振り返るイベントを開く。
同じ9日には、21年3月の開業を予定している押上新駅(糸魚川市)の駅名も発表される。新駅誕生をまちの活性化につなげようと、住民たちが列車の到着を待ちわびている。
ふるさとを愛する人々の思いが、トキ鉄の「チカラ」となる。
(この連載は上越支社・市野瀬亮、写真は同・荒川慶太、永井隆司が担当しました)