2018年6月にオープンした上越市立水族博物館「うみがたり」は、1年を経て同市を代表する人気観光施設として定着した。その集客力は市内各所にも好影響を及ぼしている。
「旅館、キャンプ場とも利用が増えた。『うみがたり効果』が大きかった」。うみがたりから車で25分ほどの同市大潟区の鵜の浜海水浴場、鵜の浜温泉。大潟観光協会の土田豊事務局長は、うみがたり開業後1年の好調をこう振り返る。
同海水浴場の利用者はうみがたり開業直後の2018年7月、前年同期比約5割の大幅増を記録。キャンプ場利用も通年で1割以上増えた。もともと長野県からの家族連れが多かったが、「うみがたりに近い温泉地」としてのPRが奏功し、さらに伸びた。土田事務局長は「うみがたりと温泉、海水浴を一緒に楽しむ流れができた。人気が長く続いてほしい」と期待を寄せる。
市が大型連休にうみがたり来館者に行った調査では、約3割が他の観光施設や飲食店を回っていることが分かった。市所有の「三和ネイチャーリングホテル米本陣」(三和区)では宿泊が2割増加。うみがたりのチケットを合わせたパックが押し上げた。道の駅「うみてらす名立」(名立区)も夏季を中心に増え、広域に効果があったことがうかがえる。
地元の直江津地区でも住民が活性化に取り組んできた。2015年の北陸新幹線開業で特急「はくたか」が廃止され、直江津駅の乗降客は減少。うみがたりをにぎわいづくりの「最大のチャンス」と位置付けてきたからだ。
商店街関係者らでつくる「直江津まちづくり活性化協議会」は昨年、飲食店のクーポン付きパンフレットを12万部発行。市民グループは小学生と協力してまち歩きマップを作製するなど、盛り上げを図ってきた。
同協議会の新井康祐会長(61)は「キャパシティーを超える来店もあった。うみがたり来館者は訪問先を探しており、まだ町に来てもらえる需要はある」と手応えを語る。
ただ、うみがたりの来館者は8割超が自家用車で来ているのが実態だ。家族連れが多いため、駐車場が限られるまちなかへの誘導には工夫が求められる。
回遊を促そうと、6月22、23の両日にあったうみがたりの1周年記念イベントは会場をまちなかに広げ、クイズラリーを実施。各会場をバスでつないだ。直江津駅前会場では地元菓子店4店が試食品を出し、「食べた後はぜひ各店を訪れてほしい」と呼び掛けた。
上越市の会社員男性(44)は「こうしたイベントがあると、家族連れが足を運びやすくなる」と話し、子どもたちも「クイズを楽しみながら直江津を歩きたい」と笑顔を見せた。
オープン1周年に合わせて開かれたイベント。和菓子の試食などが行われた直江津駅前会場もにぎわった=2019年6月22日、上越市中央1
2年目以降、うみがたりの来館者は減少する見込みだ。3月まで「新水族博物館を核とした地域活性化検討会」の会長を務めた上越教育大准教授の吉田昌幸さん(42)は「地域資源を掘り起こし、直江津自体のファン、リピーターを増やしていく活動がより求められる」と指摘する。
直江津駅前商店街振興組合専務理事で、和菓子店を営む重原稔さん(47)は「行動を起こせば、反応してくれるお客さんは必ずいる。各店がもっと魅力を磨き、うみがたりと直江津のまちが互いに支え合う関係にしていきたい」と力を込めた。