「桃栗3年というが、養分のない砂地では、3年ではとても商品にはならない」と、刈羽村の桃生産者らでつくる正明寺園芸組合の小黒健市組合長(71)は語る。
村特産の「砂丘桃」は栽培に手が掛かる果物だ。高齢化が進む農家にとって負担は大きい。組合に入っている農家は1968年の組合設立当初は35人ほどいたが、いまは21人で平均年齢は73歳だ。
虫が付きやすいため、年約20回の消毒は必須だ。害虫から守るため実に袋を掛け、傷つけないように収穫や選別をする。小黒さんは「一級品として出荷できるのは袋掛けしたうちの約4割」と苦労を明かす。
販売価格が安いことも悩みだ。
組合にはこれまでの慣例で、贈答用の桃が3キロ3000円(8~12個)、5キロで4000円(13~20個)という協定価格がある。約20年前から変わらず、国内他産地よりも3割以上安い水準だ。
小黒さんは値段を変えなかった理由を「庭先販売が主流で、昨年は3000円だったのに、今年は3500円と知り合いには言いにくい」と説明する。
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砂丘桃の販売を取り巻く状況を打破しようと動くのが、村の複合施設「ぴあパークとうりんぼ」を指定管理する「ピーチビレッジ刈羽」だ。村内最多の334本の桃の木を育てる。
値段は組合の協定価格に沿ってきた。このため、2020年までの桃の売り上げは、栽培にかかる経費の半分以下で、赤字分は他の部門の売り上げで補塡(ほてん)してきた。
構造的な赤字が続くことに、桃栽培を担当するピーチビレッジの飯田裕樹さん(36)は「もうかるところを見せないと担い手も育たない」と心配してきた。
今年から「砂丘桃が100年後も刈羽の特産であるために」をテーマに掲げ、経営基盤強化に取り組み始めた。その柱が値上げだった。贈答用は3キロ4500円、5キロ7500円と他産地と同価格帯まで値上げし、オンライン販売も始めた。値上げをしても人気は高く、販売面は好調だ。
砂丘地の利点や色付きがよくなるような栽培の工夫で甘さを蓄えた砂丘桃=刈羽村刈羽のピーチビレッジ刈羽のほ場
建設会社に勤めていた飯田さんは2017年、桃栽培の後継者にと誘われ、ピーチビレッジに転職した。祖父母が正明寺地区で桃栽培をしており、砂丘桃には愛着があった。
「想像以上に手間が掛かるが、今のままでは5年後、10年後には生産者も生産量も半分以下になる。村の特産品として残していきたいという気持ちは強くなっている」と語る。
飯田さんの思いに突き動かされるように、村内の雰囲気も変わり始めている。
村は特産の「砂丘桃」のブランド強化を目指して昨年度、桃農家を対象にしたセミナーを開いた。他産地の桃の価格状況のほか、糖度を測ってPRすれば、差別化が一層図れることなどを経営コンサルタントが助言した。今後は加工品作りも模索する。
正明寺園芸組合も来年度の出荷から値上げを検討する。組合長の小黒さんは「何かしなければと再認識した」と振り返る。
経営改善と並び、組合とピーチビレッジが注力するのが次世代の担い手育成だ。
刈羽小学校の3年生には毎年、砂丘桃の栽培の工夫や苦労を伝えている。関心を持った子どもに将来、桃栽培を担ってほしいとの願いがある。
飯田さんは「小学生時代に月1回でも桃の作業に携わってもらうなど関わりを増やし、100年後も砂丘桃生産が続いてほしい」と力を込めた。
次世代に砂丘桃の夢をつなぐ種が、まかれようとしている。
刈羽小学校の子どもたちに桃栽培について説明する正明寺園芸組合の小黒健市組合長=刈羽村正明寺