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第2弾 魚沼

[未来のチカラ in 魚沼]

加藤清史郎 雪国を行く

~南魚沼市編~ 雲洞庵 来て良かった

新潟日報 2019/10/02

 魚沼地域は、豊かな自然と古くからの歴史が刻まれた土地だ。そこに住む人々は、冬の豪雪に耐えながらも、自然の恵みを生活に取り入れ、たくましく生きてきた。同地などを舞台に10年前に放送された、大河ドラマ「天地人」で、人気を博した俳優の加藤清史郎さん(18)と巡り、地域の歴史や豊かな魅力、そして人々と触れ合った。3回にわたりその模様を紹介する。初回はドラマの撮影場所となった南魚沼市編。加藤さんが当時の記憶を振り返り、改めて魅力を体感した。

<加藤清史郎 (かとう・せいしろう)> 神奈川県出身。俳優。劇団ひまわり所属。テレビや映画、舞台、ミュージカルなど幅広く活躍している。

【動画】加藤清史郎「雪国を行く」~南魚沼市編

住職から「お帰りなさい」
座禅で無心のひととき

 加藤さんが2009年放送の「天地人」で演じたのは、名将直江兼続かねつぐの幼少期、樋口与六だ。

 南魚沼市は与六の誕生の地。与六が後の主人となる上杉景勝かげかつと学び、絆を結んだ場とされるのが、曹洞宗の名さつ雲洞庵うんとうあんだ。中心市街地から約4キロ南東、金城山きんじょうさんの麓に建つ。

雲洞庵の境内を散策する加藤さん。石畳の下には法華経の文字が書かれた小石が約7万個埋められ、「雲洞庵の土踏んだか」といわれるほど御利益があるという=南魚沼市雲洞

雲洞庵の境内を散策する加藤さん。石畳の下には法華経の文字が書かれた小石が約7万個埋められ、「雲洞庵の土踏んだか」といわれるほど御利益があるという=南魚沼市雲洞

 ここは多くの市民から慕われる兼続を育てた寺。南魚沼の人々の心のよりどころとも言える。

 そぼ降る雨の中、杉の大木が並ぶ参道を踏みしめるように歩く加藤さん。境内に立つと「厳かだが、開放的。とても気持ちがいい」と満足そうだ。

 撮影当時、加藤さんは小学1年生で、雲洞庵については天地人の舞台を巡る別の番組で訪れた際、「杉がたくさんある景色は覚えている」と記憶をたどる。

 庫裏に入ると、住職の田宮隆児さん(57)が迎えてくれた。初対面だが田宮さんは開口一番「お帰りなさい」。16年から住職を務める田宮さんは「テレビで見ていました。大きく成長されましたね」と笑顔で歓迎した。

 初代和尚をはじめ、数多くの人々がまつられている、開山堂を参拝した。無数の位牌いはいが並ぶ。景勝や兼続を教えた僧侶、北高全祝(ほっこう・ぜんしゅく)らの位牌にも手を合わせた。加藤さんは、ここでの撮影が自身の飛躍につながったことへの感謝を込めた。

 加藤さんは現在高校3年生。目前に大学受験を控える。雲洞庵では、集中力を養うため、座禅の方法を学びたいと願っていた。

雲洞庵の坐禅堂で座禅に挑戦する加藤さん。秋の虫の音だけが静かに響いていた=南魚沼市雲洞

雲洞庵の坐禅堂で座禅に挑戦する加藤さん。秋の虫の音だけが静かに響いていた=南魚沼市雲洞

 そこで坐禅ざぜん堂に移動し、田宮さんから作法を学んだ。はるか昔、ここには多くの修行僧がいた。1人1畳の空間で座禅や食事をし、睡眠も取ったという。

 半分、目を閉じて座禅を開始。田宮さんは「頭の中に何か浮かんでも、無理に追い掛けず、やり過ごすように。そのうち無の状態になる」と語り掛けた。

 静かな堂内は秋の虫の鳴き声だけが響き渡る。約10分、座禅は終わった。

 疲れたとき、公園のブランコに座り30分ほど過ごすこともある加藤さん。「無心になることは大切なのですね」と話す。田宮さんは「どんなに忙しくても、人はぼーっとする時間が大切です。受験も頑張って」と温かい言葉で励ました。

 加藤さんが感謝を伝えると、田宮さんは笑顔で「自分の体と心を静かな環境で落ち着かせ、初めて気付くものもある。これから成長し、仕事をしていく中で、座禅ではなくても静かな時間を持つようにしてください」と送り出した。

 去り際、加藤さんは周囲に頼まれ、劇中の雲洞庵での名せりふ「わしは、こんなとこに来とうはなかった」を披露。今回は「でも来て良かった」と笑顔で付け加えた。

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雲洞庵のお守り

雲洞庵のお守り

 戦国時代の世を動かした上杉景勝や直江兼続。ともに四書五経をはじめ中国の古典にも親しみ、同時代の武将の中では教養があり、達筆だったとされる。2人を育てた雲洞庵は、御利益にあやかりたいとして、学業成就のお守りを目当てに訪れる人もいるという。大学受験が間近に迫る加藤さんは、同行した取材スタッフからお守りをプレゼントされて大喜び。「頑張ります」などと話していた。お守りは、500円で販売されている。

兼続愛あふれる商店街

漬物に冬越しの知恵みる

 地元の名将、直江兼続を市民が大切にしている南魚沼市。六日町駅に近い中心商店街は、ドラマを機に名称を変更、「兼続通り商店街」と名乗る。

 夏祭りも「兼続公まつり」に変えた。商店街の近くにある無料の足湯コーナーは、幼少時代の愛称にちなんで「お六の湯」と名付けられている。あちこちで兼続愛があふれている。

 商店街で飲食店を営む、南雲勇路さん(50)が案内してくれた。ここで加藤さんは、「愛」の文字が飾られたかぶとをかぶり、右手で遠くを指す勇ましい姿の高さ約2メートルの兼続像と対面を果たした。

 「天地人」放送後の2010年、地元と市が共同で設置した。ほかにも4体の武将像が並ぶ。南雲さんは「兼続像が指している先は、うちの娘も通う小学校。ここは登下校時の集合場所」と話す。戦国武将の名前をすらすらと言える児童も多いという。

 加藤さんは「地元から愛された兼続はかっこいい。僕も将来こうなりますよ」と笑いながらポーズを決めた。

兼続像の前でポーズを決める加藤さん=南魚沼市六日町

兼続像の前でポーズを決める加藤さん=南魚沼市六日町

 像の近くに、漬物製造の名店、今成漬物店がある。地元で取れたキンシウリなどの野菜や山菜を酒かすで漬けた「山家やまが漬」で知られる。

今成漬物店の山家漬

今成漬物店の山家漬

 店を切り盛りする今成正子さん(71)が漬物蔵を案内してくれた。「冬に野菜が乏しい雪国では、漬物は貴重な保存食。雪国の知恵が詰まっています」と今成さん。加藤さんは漬物だるの中を興味深そうにのぞき込む。

 今成家は代々、檀家だんか総代を務めるなど雲洞庵とは古くからつながりが深い。今成さんは「大きくなりましたね。与六が兼続になって帰って来たみたい」と大喜び。

 加藤さんも「あちこちで歓迎され、まるで親戚を回っている気がして、うれしい。だって越後の子ですから」とはにかんでいた。

今成漬物店を訪れ大歓迎を受けた加藤さん=南魚沼市六日町

今成漬物店を訪れ大歓迎を受けた加藤さん=南魚沼市六日町

末寺の名を冠する旅館 ryugon

 かつてこの地にあった上田龍言りゅうごん寺。雲洞庵の末寺だが、いまはその名を由来にする旅館がある。六日町温泉のryugon(龍言)だ。

 建物の大半が近隣の古民家を移築したもので、本館は国登録有形文化財。母屋に中門と呼ばれる突出部があり、雪でも出入りがしやすい豪雪地ならではの建築様式だ。

宿泊先ryugonの「幽鳥の間」でくつろぐ加藤さん=南魚沼市坂戸

宿泊先ryugonの「幽鳥の間」でくつろぐ加藤さん=南魚沼市坂戸

 上田龍言寺は、景勝を輩出した「上田長尾家」の菩提寺ぼだいじで、関ケ原の戦いに敗れ、山形・米沢に移封された景勝とともに寺も米沢に移った。1969年に旅館として開業した際、寺の名前を旅館名に冠した。今年10月には内部も一部改装、名称も現代風にして再スタートを切る。

 10年前、天地人の撮影の様子を、前おかみから聞いていたという支配人、小野塚敏之さん(42)は「主な出演者は、ここを拠点にロケへ出掛けていたそうです。小さかった加藤さんはかわいかったと聞いています」と話していた。

 加藤さんは「この町は、雲洞庵とともに歩んだ歴史がある。そこにまつわる役ができたことは本当に良かった」と話していた。

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