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第2弾 魚沼

[未来のチカラ in 魚沼]

加藤清史郎 雪国を行く

~魚沼市編~ 住、食に先人の知恵

新潟日報 2019/10/16

 俳優の加藤清史郎さん(18)が魚沼地域の魅力に出合う旅「加藤清史郎 雪国を行く」。第3弾は、長い歴史がそこここに刻まれた、魚沼市を巡った。豪農の館と呼ばれる文化財は築後200年を超えて、いまも多くの人を引きつける。幕末に活躍した彫刻師・石川雲蝶が制作した作品が残る寺も多い。一方、昭和時代のレトロなグッズを集めた小さな博物館は隠れた人気スポット。中越地震をはじめ幾多の災害を、不屈の精神で乗り越えてきた飲食店もある。秋の魚沼路を歩き、歴史を知り、人々と触れ合い、地元の食材を使った郷土料理を味わった。

<加藤清史郎 (かとう・せいしろう)> 神奈川県出身。俳優。劇団ひまわり所属。テレビや映画、舞台、ミュージカルなど幅広く活躍している。

【動画】加藤清史郎「雪国を行く」~魚沼市編

豪農の館で味わう郷土料理

 1797(寛政9)年に建てられた豪農の館「目黒邸」(魚沼市須原)。太い柱やはりといった、豪雪地帯の農家の特徴を備え、国の重要文化財に指定されている。

 加藤さんが子役として出演した、2009年放送のNHK大河ドラマ「天地人」でも、最終回のロケ地となった。加藤さん自身は撮影で訪れてはいないものの、縁のある建物だ。

「目黒邸」を見学する加藤さん。かやぶきの屋根が印象的な主屋は、重厚なたたずまいだ=魚沼市須原

「目黒邸」を見学する加藤さん。かやぶきの屋根が印象的な主屋は、重厚なたたずまいだ=魚沼市須原

 主屋には、存在感のあるかやぶき屋根が架かる。施設管理員の波形勝美さん(60)によると、総重量は約90トンあり、12年から3年かけた前回の全面ふき替えでは、9000万円を要したという。「すごい」。説明を聞き、加藤さんは驚きの声を上げた。

 内部には、代々使われてきた、いろりが今も残る。かやぶき屋根を維持する上で、大事な役割を果たしてきた。煮炊きする際に出た煙によって、カヤがいぶされ、腐らなくなり、虫よけの効果も得られた。「昔の知恵ではないか」と波形さんが語り掛けた。

 目黒邸では本年度、施設の見学と郷土料理を味わう夕食会をセットにしたツアーが始まった。魚沼市観光協会が主催し、6月から10月末まで全5回開かれる。

 料理の腕を振るうのは、地元住民のグループ「山彩すもんの会」のメンバー。代表の酒井イホさん(69)は「われわれの料理が都会の人にとっては、ごちそうだと聞いた。皆さんが喜んで食事してくれることが私たちの喜び」と語る。

豪農の暮らしを今に伝える「目黒邸」で、郷土料理を味わう加藤さん=魚沼市須原

豪農の暮らしを今に伝える「目黒邸」で、郷土料理を味わう加藤さん=魚沼市須原

 茶の間で、加藤さんにもツアー夕食会の献立が振る舞われた。魚沼産コシヒカリをはじめ、ゼンマイの煮物や白あえ、サツマイモの天ぷらなど、地元食材を使った10品以上がずらりと並んだ。

 「けんちん汁がおいしい」と加藤さん。食事を味わい、同会の人たちとの会話を楽しんだ。雪の中で野菜を保存する方法など、この地ならではの生活の工夫にも話が及んだ。

 酒井さんは「食材を大切にする親の料理を大事にし、次の世代に引き継ぎたい」という。先人から受け継がれてきた生活と食に触れ、加藤さんは「雪国の文化が知恵を築き上げてきた。だからこそ今も残っている」と感心していた。

加藤さんが味わった料理。地元の秋の幸を使った地産地消のメニューだ

加藤さんが味わった料理。地元の秋の幸を使った地産地消のメニューだ

西福寺

息のむ 雲蝶の最高傑作

 越後のミケランジェロとも称され、幕末に活躍した彫刻師、石川雲蝶(1814~83年)は魚沼地域に多くの作品を残している。最高傑作とされる作品が西福寺(魚沼市大浦)に残る。

「西福寺開山堂の天井に広がる石川雲蝶の作品=魚沼市大浦

西福寺開山堂の天井に広がる石川雲蝶の作品=魚沼市大浦

 開山堂の天井いっぱいに広がる、「道元禅師猛虎調伏之図(どうげんぜんじもうこちょうぶくのず)」が目に飛び込む。極彩色で迫力満点の作品だ。加藤さんも「すごい」とつぶやき、息をのんだ。

 案内してくれた南魚沼雲蝶会会長の中島すい子さん(65)によると、江戸幕府お抱えの彫刻師だった雲蝶が、越後に来たのは30代前半のころ。その後、亡くなるまでの約40年間のうち、半分は魚沼地域で暮らし、各地の寺などで制作した。

 雲蝶が魚沼で過ごした時間は、自らの技術を高める修業の場だったと考える中島さん。「この作品は約6年をかけ、技の粋を尽くした」との説明に、加藤さんも納得の表情をしていた。

お宝グッズをゲット

 加藤さんに同行しているスタッフから、西福寺で販売している御朱印帳=写真=が贈られた。表紙と裏表紙は、寺の開山堂の「道元禅師猛虎調伏之図」をあしらったデザイン。滝登りするコイや竜、虎などが色鮮やかに描かれている。加藤さんは「すてきなデザイン。これからは、いろいろな所をめぐって、御朱印を書いてもらおうかな」と上機嫌だった。御朱印帳は2000円(税込み)。

味乃家 魚野川

度重なる災害乗り越え

 魚野川そばに立つ食堂「味乃家 魚野川」(魚沼市下島)。中越地震をはじめ、数々の災害に遭ったが、そのたびに不屈の精神で復活を遂げてきた。加藤さんは昼食で寄った。

 店は2004年の7・13水害で浸水、同年の中越地震では建物が傾くなど被災した。翌年1月、地震で亀裂が入っていたのを知らずに使っていた石窯から出火し、建物が全焼。7カ月後に店を再建したが、11年7月の豪雨災害でも浸水被害に遭い、食堂部分は床上1.5メートルまで水が達した。

 店主の覚張徹さん(69)は当時を思い出し、涙ながらに語る。「不運のたびに、人生をやめようと思った。でも近所の人や常連の後押しで、今も頑張れている」。加藤さんもじっと耳を傾けた。

 覚張さんは加藤さんに、石窯で焼いた人気のピザを出した。窯は中越地震の際、復旧作業に当たる人や、近隣住民にパンなどを焼いて提供し喜ばれた。火事で壊れてしまったが、復活させ、今も毎日のように、ピザやパンを焼いている。

 加藤さんは「地震や水害の様子も、ご主人の強い意志も分かった。ピザは本当に感慨深い味でした」としみじみと話した。

食堂「味乃家 魚野川」の石窯で焼かれたピザ=魚沼市下島

食堂「味乃家 魚野川」の石窯で焼かれたピザ=魚沼市下島

エリア878魚沼博物館

昭和へタイムスリップ

 一見、普通の2階建て住宅。だがここは昭和時代のレトログッズなど、約2万点を展示する「エリア878魚沼博物館」(魚沼市青島)だ。隣に住む介護士、桜井治さん(58)が運営する。

 館内は、桜井さんが子どものころから約50年間にわたり集めた、おもちゃなどのコレクションでいっぱいだ。

 玄関をくぐると、壁一面に飾られた昭和アイドルのレコードが目に飛び込んでくる。2階には特撮ヒーローなどの小さな人形が所狭しと並ぶ。「タイムスリップしたみたい」と加藤さんの笑顔がはじけた。

 外部に委託陳列している数も合わせると所蔵は5万点にも及ぶ。桜井さんが集めたもののほか、長男や長女によるものも多い。さらに最近は、近隣の人が「もらってくれないか」と次々と持ち込んで来るという。

 阪神ファンだという加藤さんは、プロ野球選手のカードなどを集めたコーナーでお気に入りの選手を見つけ大喜びだった。

 桜井さんは「ここに来れば、どんな年齢の人でも童心に返る。そんな場所を提供したい」とほほ笑んだ。

 入場無料。要予約。問い合わせは桜井さん、080-6661-9810。

エリア878魚沼博物館でプロ野球グッズを集めたコーナー。阪神ファンの加藤さん(左)と盛り上がる桜井さん=魚沼市青島

エリア878魚沼博物館でプロ野球グッズを集めたコーナー。阪神ファンの加藤さん(左)と盛り上がる桜井さん=魚沼市青島

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