2008年度に始まったふるさと納税制度。燕市は寄付額で現在、6年連続県内トップを誇る。不動の強さの秘密に迫った。(三条総局・平井玲子)
鍵を握る返礼品は金属産業のまちらしさを前面に、洋食器やキッチン用品など多彩で独自性が際立つ。
初めて県内1位となったのは14年度だ。それまで史料館などの無料券をお礼に贈っていたが、洋食器や鍋などの特産品に一新。仲介サイトへの掲載も後押しとなり、寄付額は13年度の26万円から一気に1億円台となった=グラフ参照=。
19年度は42億円と全国10位に大躍進。市内で大型ロケが行われたテレビドラマ「下町ロケット」が18年10月~19年1月に放映され、「認知度が上がったのが理由」(市総務課)とみる。
返礼品もいまや約1500品目。4月と10月に新規の品物を追加して更新し、リピーター獲得につなげている。
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燕市は19、20年、仲介サイト「ふるなび」の「自治体アワード」で総合部門賞に輝いた。返礼品のレビュー(評価)や寄付者への対応など、総合的に最も高評価の自治体に贈られる賞だ。
ふるさと納税事業を担う総務課の職員は申し込み状況を毎日チェック。寄付者への確認書類の発送は迅速を徹底し、市長の礼状と市の観光パンフレットと共に郵送する。返礼品も早期発送に努め、「末永く燕のファンでいてもらえるように」と向き合う。こうした姿勢や実績も、多くの寄付を集める理由だろう。
20年度の寄付額は49億円。寄付者は首都圏を含む関東地方が約5割、関西が約2割を占めた。各自治体のデータは今夏にも発表される見通しだが、県内トップは間違いなさそうだ。
鈴木力市長は交流・応援人口を増やす施策として、ふるさと納税に注力してきた。ウイルス禍の中で市はいち早く、首都圏の市出身学生に食料を送り、好感を持った人が寄付を納めてくれたともみている。「全国の皆さんが応援したくなる取り組みを、今後も実践したい」と力を込めた。
ふるさと納税の人気を支える返礼品は、どのような物があるのだろう。
小林工業が手掛けるスプーンやフォークなどのカトラリーは人気が続く返礼品の一つ。中でも好評なのが「ミルトア」シリーズだ。直線と曲線が融合した日本的なデザインで、柄の膨らみが心地よく手になじむ。それぞれ5万、7万円の寄付で25本や30本の5人用セットを受け取る人が多い。
洗練されたデザインや持ちやすい形状で人気の「ミルトア」シリーズ
海外製品の台頭で国産品売り場が減る中、「ふるさと納税のおかげで光が当たった。背中を押される思い」と小林貞夫社長(59)はかみしめる。
キッチン用品も多数ある。近年申し込みが多いのは、和平フレイズが企画販売する料理道具「ラバーゼ」シリーズのステンレス製水切りかご(大)縦置きタイプ(寄付額4万円)。一般的な製品は底が格子状だが、ラバーゼでは平行にワイヤーが通してある。溶接部がほぼないため、「手入れが楽」と評判だ。
使いやすさで評判な水切りかご(大)縦置きタイプ
燕三条地域は板金やプレス、磨きといった行程を専門業者が担う分業体制が根付く。森井敏之専務(64)はこの製品も各社の協力があって完成したとし、「町工場の技術を結集した燕らしい品」とアピールした。
仲介サイトの家電ランキングでは、ツインバード工業の全自動コーヒーメーカーが上位にある。豆のひき方や抽出温度、ドリップ方法を自家焙煎(ばいせん)の第一人者が監修し、市場でもヒット商品だ。「すっきりとまろやかで、クリアな味を忠実にカスタマイズできる」と商品開発部の岡田剛次長(52)は胸を張る。3杯用と6杯用があり、寄付額はそれぞれ9万円台と12万円台。製品に高い付加価値を求める人々の心を確実に捉えている。
本格的な味を楽しめる全自動コーヒーメーカー3杯用(右)と6杯用
同社製の美容家電、防水ヘッドケア機(寄付額5万8千円)も好評だ。シリコン製の通称「もみゆび」が頭皮をほぐし、「顔のリフトアップ効果も期待できる」と同部の鮎沢紗希さん(30)。レビューに製造技術や品質を高く評価する声が多数あるのが「うれしい」と言い、「これからも期待に応える製品を届けたい」と声を弾ませた。
頭皮をもみほぐし、疲れや緊張をケアできると注目を集める防水ヘッドケア機