[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]
岩や植物が配置され、ライトアップされた水槽の中を白地に赤、だいだい色に黒などカラフルな錦鯉たちが泳ぎ回る。新潟市西区の観光施設「新潟ふるさと村」に設置された水槽は、訪れた人々の注目の的になっている。
錦鯉といえば、体長30センチを超え、丸々としたイメージを抱く。しかし、水槽で泳ぐのは十数センチと小さいものがほとんどだ。家庭で手軽に飼えることをアピールしようと、生産者約60人が名を連ねる小千谷市錦鯉漁業協同組合が2018年12月、展示を始めた。
錦鯉が好きだという孫と訪れた新潟市西区の小椋和男さん(70)は「40年ほど前に庭の池で錦鯉を飼っていたので懐かしい。小さくてかわいらしく、インテリアとしておしゃれだ」と興味を示した。
水槽で泳ぐ小さな錦鯉。手軽に飼育できることをアピールし、国内市場の活性化を狙う=新潟市西区の新潟ふるさと村
1950年代後半以降、日本中でブームとなった錦鯉。当時は庭に池を造って優雅に泳ぐ姿をめでるのが、一種のステータスシンボルでもあった。だが、海外への出荷が伸びるのとは裏腹に、国内市場は次第に縮小していった。
バブル景気をきっかけに地価が高騰し、池を造る庭付きの住宅を持てなくなったことや、1匹当たりの価格が跳ね上がった反動が、90年代に入って影を落としたという。
業界には、経済の浮き沈みが激しい海外市場に懐疑的な声もあった。基盤を固めるため、原点である国内市場を盛り返そうと取り組んだのが、屋内での観賞魚としてのPRだ。
実は、錦鯉は飼育する場所の広さによって体の大きさが変わる。広い池でなく、室内に置ける水槽などで飼えば、体長は10センチほどにとどめておける特性があるという。
小千谷市錦鯉漁協は、ふるさと村に続き、市健康・こどもプラザ「あすえ~る」(城内4)にも水槽を設置。市は本県の玄関口の新潟空港や、国際的な観光都市京都のホテルに置いた。
全日本錦鯉振興会新潟地区は2013年から、体長36センチ以下と小さめの錦鯉を集めた「国際錦鯉幼魚品評会」を開いている。
「手軽に飼える美しい存在として、小型の錦鯉の人気が高まるといい」と市錦鯉漁協事務局長の瀬沼功さん(59)は話す。
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小型の錦鯉の普及を販売業者も後押しする。小千谷市片貝町の「ぷれしゃす」は、水槽飼育向けの錦鯉を専門に販売し、年間を通じてさまざまな品種を取り扱っている。
社長の入澤恵さん(47)は、04年の中越地震後に関東からUターン。幼かった長女と観光施設を訪れた際、水槽でも錦鯉が飼えると初めて知り、07年に店を開いた。価格は安いもので800円、高くても数万円。記念日のプレゼントに水槽とセットで購入する顧客もおり、手応えを感じている。
入澤さんが国内市場拡大のキーワードに挙げるのが「逆転現象」だ。日本発祥のコンテンツが海外で人気を集めていると分かれば、国内の若年層も関心を持つようになると踏む。「若者は海外のトレンドに敏感。錦鯉が『クール(格好いい)』と思われれば、国内での広がりも期待できる」
業界では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により自宅で過ごす時間が増える中、部屋で観賞するため錦鯉を購入する新規の客が増え始めていると期待する向きもある。
日本らしさのシンボルとして存在感を高める錦鯉。「国魚」指定を目指す動きなどを追い風に、産地は国内市場の活性化という原点回帰を目指す。「発祥の地」は伝統を守りつつ、新たな試みを続けている。
(この連載は長岡支社・林康寛が担当しました)