第3弾 長岡・見附・小千谷

<上> 大凧合戦編

勝利を求め空中戦白熱/対岸での参加・交流進む

新潟日報 2020/09/24

 負けられない気持ちが技を磨いた。競い合う相手がいたから続けられた。大凧合戦、闘牛、花火。長岡市と見附市、小千谷市に伝わる伝統行事は身近な競争相手の存在により、それぞれの魅力を高めてきた。7月から展開する地域支援プロジェクト「未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷」最終シリーズは、共に輝くライバルの物語を紡いだ。

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 刈谷田川を挟んで対岸の見附市今町、長岡市中之島の両地区が毎年6月の第1土曜から3日間、勇壮な空中戦を繰り広げる「見附今町・長岡中之島大凧合戦」。両岸から六角大凧を揚げ、糸を絡めて奪い合う。近年は少子高齢化に伴い伝承が課題となる中、近隣のイベントで両岸が一緒に凧を揚げてPRするなど力を合わせている。

 大凧合戦の歴史は江戸時代にさかのぼるとされ、県無形民俗文化財に指定されている。六角凧は縦4.3メートル、横3.3メートルで畳約8枚分にもなる。昔は100枚の和紙を張り合わせて作ったことから「百枚張り」とも呼ばれた。

激しい空中戦を繰り広げる見附今町・長岡中之島大凧合戦=2019年6月、長岡市中之島地域の刈谷田川堤防

激しい空中戦を繰り広げる見附今町・長岡中之島大凧合戦=2019年6月、長岡市中之島地域の刈谷田川堤防

 凧を揚げるグループは「凧組」と呼ばれ、主に町内単位で組織される。現在は今町8組、中之島3組の凧組が参加。合戦のバランスを保つため、今町側の2組が中之島側に回り、6対5で行われる。

 合戦は両岸から同時に複数の凧を揚げ、風向きなどによって勝負が始まる。上空で対岸の凧と糸を絡め、それぞれ数十人がかりで引き合い、どちらかの凧糸が切れるまで続ける。勝利した凧組は、敗れた凧を戦利品として獲得する。スポンサーなどから懸賞が付く勝負もある。

絵付け自前思いひとしお  ■中之島■

 「今町には絶対に負けられない。強い対抗心を持って合戦に参加してきた」。中之島の凧組の一つ「勇組」の元組長難波進さん(73)は、勝負へのこだわりを活動の原動力にしてきたと話す。

 それゆえ、凧作りにも情熱を注いだ。「昔は凧に使う和紙は小国町(現長岡市)や下田村(現三条市)まで買いに行った。骨組みの竹は、丈夫な佐渡産を仕入れて使ったこともあった」と明かす。

 現在は、両岸の代表でつくる大凧合戦協会の製作部の職人が、技術継承や人材育成も兼ね、全11の凧組から注文を受けて白凧を作り、絵付けをしている。しかし、中之島の3組は今も、絵付けの技術を受け継ぎながら、自分たちで武者絵などを白凧に描いている。

 中之島の3組でつくる中之島凧組合の代表で、勇組組長の銀山昭博さん(49)は20代の頃から絵付けを担当してきた。「やっぱり自分たちで絵を描いた方が思い入れが強くなる。空を舞う凧を見ると、なおさら気合が入る」と語る。

 少年時代、親に連れられて観戦した大凧合戦で、地元の凧組の戦いぶりに魅了された。今年は新型コロナウイルス感染防止のため合戦は中止になったが、「来年また、必ず好勝負をやりたい。子どもたちが熱気に触れることで、次の世代を担う人材の育成や伝統の継承につながるはずだ」と話した。

伝統継承、魅力発信へ一丸  ■見附今町■

 大凧合戦協会の会長、今井敏昭さん(70)は今町の凧組「葵組」を昭和40年代初めに結成し、大凧合戦に参加したメンバーの一人だ。「どうしても自分たちで凧を揚げたくて、地元の仲間と一緒に葵組をつくった」と述懐する。

 地元の歴史資料などを扱う見附市のみつけ伝承館によると、葵組の加入で凧組の数は今町側が中之島側の倍の6組(見附市役所職員組を除く)になったことから、合戦をバランスよくするため、葵組には中之島側で凧を揚げてもらうことになったという。

 その後、今町で発足した五丁目組も中之島側に入り、今町側6組、中之島側5組の現在の形になった。

 「最初は今町の凧組を受け入れてくれない雰囲気もあったが、徐々に中之島の凧組とも仲良くなった」と今井さん。後発の葵組などの参加が、ライバル関係にあった両岸の関係者に新しい風を吹き込んだ。

 1975年には今町、中之島を問わず、地元の凧好きが集まる「越後六角会」が活動をスタート。手弁当で県外でのイベントなどに出向いて凧を揚げ、大凧合戦の魅力をPRする取り組みを進める。

 今町の「奴組」の元メンバーで、六角会の会員でもある小柳昭文さん(65)は「合戦は真剣勝負。それ以外は仲間として、一緒に動くのも大事なことではないか」と語る。

 近年は少子高齢化の影響で人手が足りず、町外の友人らを誘って合戦に参加する凧組もあるという。後進育成のため、大凧合戦協会製作部のメンバーが小学生に白凧作りや絵付け体験を指導し、伝統を継承する取り組みもしている。

今町小の児童に大凧の作り方などを教える大凧合戦協会の職人=1月、見附市今町1

今町小の児童に大凧の作り方などを教える大凧合戦協会の職人=1月、見附市今町1

 協会は合戦を盛り上げようと、新たな試みを始めた。3年ほど前から、勝敗、揚げた凧の数などの合計得点で順位を決め、賞金を出すことにした。今井さんは「組員のやる気が上がり、お客さんにもより白熱した合戦を楽しんでもらえる」と狙いを話す。

 10月17日には疫病退散を願い、全国で一斉に凧を揚げるイベントが開かれ、両岸の凧組有志は長岡市の国営越後丘陵公園で一緒に凧を揚げる計画だ。

 今井さんは「時代に合わせ、協力できるところは協力すべきだ。協会が両岸のまとめ役となり、地域に伝わる大切な宝物として後世に伝えていきたい」と話している。

(長岡支社・石田篤志)

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