魚沼エリアが紹介される時、頭に付く決まり言葉がある。「雪国」だ。毎年11月には山が白くなり始め、翌年の5月ごろまで残る所もある。雪は、スキーをはじめとする観光産業を支える貴重な存在。しかし、日々の除雪で苦労する市民にとっては悩みの種だ。そのネガティブなイメージがご当地ナンバー「雪国魚沼」を挫折させた。生活とは切っても切り離せない雪を、どう未来に生かしていくか-。2020年東京五輪・パラリンピックの会場地周辺で雪活用を目指す、南魚沼市の取り組みを中心に考える。(報道部・渡辺一弘)
「雪国より、雪のプレゼントです」-。8月上旬、さいたま市。気温が40度近くまで上がったこの日、サッカー競技場に通じる道では、南魚沼市の雪冷房テントが出現した。2020年東京五輪・パラリンピックに向けた実証実験だった。
同市が持ち込んだ冷房装置は、雪で冷やした水を送風機に送り、冷風を循環させるもの。外気温より、10度以上、気温を下げる。
会場では手のひらサイズのビニール袋に雪をぎっしり詰めた「スノーパック」も配布した。雪はきめが細かいため、氷より溶けにくく、30分~1時間、冷たさを保つ。
猛暑の中、自然の力による冷気を浴びた人からは「こんな涼しいなんて」との声が相次ぎ、評判は上々。中には「魚沼はコメだと思っていたが、雪にこんな使い方があるとは」と驚きの声も上がった。
さいたま市での実証実験で、スノーパックの準備をする南魚沼市職員ら。首都圏でのテストを重ね、自信を深めた=2019年8月、さいたま市
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「資源としての雪の力を伝えたい」と南魚沼市は18年から雪活用に取り組む。特に世界が熱視線を送る東京五輪・パラこそ、冷房のエネルギーとしての雪をアピールするにはうってつけの場と、照準を合わせた。
第1弾として、同年6月に渋谷区のイベント会場に雪を持ち込んだ。それ以降、五輪会場となる施設でのスポーツ大会や、首都圏のイベントで実験を重ね、課題を探った。利雪の先駆者「雪だるま財団」(上越市)や、市民からもアドバイスを受け改善した。
例えば雪の運搬。最初は1メートル四方の袋に詰め込み、トラックで運んだ。だが「溶けた水を道にまくようなものだった」と同市U&Iときめき課の関睦さんは苦笑いする。今はJR貨物の保冷コンテナを使う。
スノーパックも当初は首に巻いてもらおうと、細長い傘の収納袋で試してみたが、雪が入れづらかった。代わりに取り入れたのが、チャック付きの袋。会場で雪を入れ替えて、何度も使えるようにした。
冷房装置もさいたま市で使った水冷式のほかに、雪を詰めたプラスチックの箱に送風機を付けたものも作った。
実験は10回を越えた。関さんは「肌感覚で『いける』という自信を得た」とうなずく。
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規制の厳しい五輪競技会場内では雪冷房導入は難しい。南魚沼市は首都圏の自治体と連携し、会場と最寄り駅を結ぶ道、「ラストマイル」での活用を狙う。
最有力候補は、さいたま市だ。サッカーとバスケットボールの会場地であり、南魚沼市と友好都市を結んでいる。18年に林茂男・同市長が提案した。
さいたま市では、ラストマイルを含めた暑さ対策を検討していたが、具体策はなかったという。同市オリンピック・パラリンピック部の石井出宏嘉主幹は「雪そのものがエコ。首都圏に運ぶ際、鉄道を使うことで環境負荷も下がる。比較的近い地域に降った雪というのもいい」と話す。
南魚沼市によると、さいたま市以外にも興味を示す団体はあるという。
なぜ今、雪の魅力PRに力を注ぐのか-。「われわれが雪を否定したら、地域を否定することになる。価値を創造する必要があるし、これは雪国共通の課題」と林市長。そう語る背景には、「雪国」を冠した自動車のご当地ナンバーが頓挫した苦い記憶がある。