第2弾 魚沼

雪国、再興

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文化育んだ土壌誇りに

視点変えれば可能性の塊

新潟日報 2019/09/28

 「雪国には可能性しかない」。魚沼エリアの3市2町などでつくる「雪国観光圏」の代表理事、井口智裕さん(46)=湯沢町=は言い切る。約8000年前の縄文時代から、この地に人が住み続けてきたことを踏まえ、「雪があるから物を保存する技術や人々が助け合う文化が生まれた。歴史が証明している」と語る。

 魚沼と同じく寒冷地の北欧デンマークに「ヒュッゲ」という言葉がある。幸福や心地よさを意味する。同国では週末に親しい人と食事を取りながら心地よい時を過ごす習慣を指す場合にも用いられ、世界的にもそのライフスタイルは高く評価されているという。井口さんは「魚沼にもその土壌がある」とみている。

 同観光圏では雪国の食文化や産業、自然を地域資源として発信する。井口さんは「この地を広い視点で見る必要がある。雪によって育まれ、守られた文化が光っている」と力を込める。

「八色しいたけ」のハウスに取り付けられた雪冷房。雪どけ水を循環させて冷風を出す=8月、南魚沼市雷土

「八色しいたけ」のハウスに取り付けられた雪冷房。雪どけ水を循環させて冷風を出す=8月、南魚沼市雷土

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 困りものをいかにプラスに活用するか-。雪国ではその思いが誇れる文化や産業を産んできた。

 例えば、ユネスコ無形文化遺産の越後上布。春の足音が聞こえる2月末。1週間から10日、生地を雪にさらし、くすみを取る。上布づくりには欠かせない工程の一つだ。

 塩沢つむぎ記念館の南雲正則館長(67)は、江戸時代の文人、鈴木牧之の北越雪譜に「雪は縮みの親」と記されていることを挙げ、「まさにその通りだが、それは酒にもコメにも言える」と強調する。

 近年、魚沼エリアでは雪の活用は広がりを見せる。南魚沼市の雪冷房の取り組みに加え、雪室を活用した野菜や酒などの食品の熟成なども注目を集める。

 同市雷土の農業、上村清吉さん(67)は「八色しいたけ」を栽培するハウスに雪冷房を活用する。年間350万円ほどかかっていた冷房の電気代が、2割ほど削減されたという。

 地方創生がうたわれながらも、首都圏に人もモノも集まる現状に心を痛める上村さん。「雪室コーヒーのようにシイタケや野菜がブームになれば、また違うのではないか」。新たな価値の創出に期待を込める。

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 雪に輝く地域の魅力に取りつかれる若者もいる。「雪からは逃れられないけれど、厳しい環境で生きる姿はかっこいい」。そう語るのは千葉県育ちで、2017年に湯沢町に移住し、宿を営む奥田将大さん(33)。石油元売り会社に勤務していた際、アラブ首長国連邦のアブダビで過ごした経験から、「雪国は世界的視野で見ればレアな環境」と、その魅力に気付かされたという。

 奥田さんをはじめ、地域おこし協力隊や起業などをきっかけに、魚沼エリアに移り住む若者を見掛けるようになってきた。

 南魚沼市によると、18年度の移住者の推計は134世帯164人。そのうち21~30歳が46%を占める。

 同市出身の山本あいさん(21)は今春、神奈川県の大学を休学し、地元の魅力を発信する団体を立ち上げた。「地元住民の交流の場づくりや、新しい観光の形を提供する軸に雪がなり得る」と考えている。

 雪国の新たな未来図を考える土壌が今、生まれつつある。

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