第2弾 魚沼

[未来のチカラ in 魚沼]

技と心つむいで きもののまち十日町

<下>
<伝承の輪> ふるさと誇る核 次代へ

日本の文化 小学校で指導

新潟日報 2019/10/04

 9月中旬、十日町小学校の畳敷きの「作法室」。浴衣姿の女の子たちが、しずしずとお茶を運ぶ。「腕を伸ばして」「畳の縁は踏まないように」。所作の指導に素直にならう。「とてもきれいなおじぎですね」。褒められると、はにかんだ笑みを見せた。

 6年生が着物の着付けなどを学ぶサークル「わかむらさき」の月1回の活動日だ。市民の着物愛好家が指導役となり、着付けと共に、お茶や踊り、百人一首など着物に関連する日本文化に親しむ場となっている。今年は19人が参加。この日は、文化祭でのお茶会本番を前に、作法を学んだ。

 「足がしびれた」。ほっとした様子の子どもたちがはしゃぐ。「着物を着るのは楽しい」と小学生の女の子(12)。別の女の子(11)も「お茶は初めてだけど、興味がわいた」と笑顔で語る。

「わかむらさき」でお茶会の作法を学ぶ十日町小の児童。6年生の着物姿にあこがれる下級生も多いという=9月、十日町小

「わかむらさき」でお茶会の作法を学ぶ十日町小の児童。6年生の着物姿にあこがれる下級生も多いという=9月、十日町小

 かつて、どの家にも織物業界に関わる人が1人はいるといわれた十日町。それほど着物が身近だった。そんな産地でも和服離れがいわれて久しい。伝統を次の世代に伝えようと、市民らの取り組みが地道に続く。

 わかむらさきで中心となって指導する、村山峰子さん(76)は「着物の心地よさを伝え、着物好きを育てたい」、そんな思いで22年間続けてきた。当初2人だった指導役も、12人に増えた。

 「子どもたちの胸に『十日町生まれ』という核が芽生えればうれしい」と村山さん。卒業後、着物に興味を持ち続ける子もいる。一昨年は初めて男子も3人参加。1人は本格的に茶道を学び始めた。

 十日町総合高校では、着物文化を学ぶ授業が長年、3年生の選択科目として続いている。今年は29人が選択、和装の歴史や着付けなどを週2回学んでいる。

 9月には振り袖の着付けの実習が始まった。「浴衣は自分で着られるようになった」という女子生徒(17)は「着物は道具も多くて難しいけど、着てみたい」と張り切る。

 業界も子どもたちへの着物文化伝承に取り組む。各社は学校の工場見学を積極的に受け入れている。十日町織物工業協同組合として一昨年まで8年間にわたり、市内の全中学校を巡回し、1年生に着物文化を伝える授業を実施した。

 「ふるさとが着物の街だと知ってほしい。それが将来、作る側としての志に育てば、技術の継承にもつながる」。吉沢武彦理事長(54)は期待する。

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 学びやを飛び出し、着物姿の若者が地域で活躍する機会も生まれている。昨年10月の「地そばまつり」には、十日町総合高3年生18人が振り袖姿で参加。JR十日町駅で観光客を案内するなど、着物の街のアピールに一役買った。

 着物愛好家らでつくる「繭の会」は「十日町雪まつり」をはじめ、市内外のイベントで着物ショーを演出している。ショーには若い世代に声を掛け、登場してもらっている。幼稚園児から30代まで年代もさまざまだ。「きれいな着物姿で舞台に立つ。そんな経験が思い出として残り、いつか着物への興味につながるといい」と代表の千原美由紀さん(47)は願う。

 着物の街十日町への誇りを持ってほしい-。そんな市民らの地道な取り組みは、直ちに花開くものではない。故郷を離れる若者も多い。関係者は、子ども時代の着物体験を思い出し、袖を通す日が来ることに期待を寄せる。そんな明日に向け種をまく。着物の街の努力は続く。

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