上越地域は、自然の宝庫であり、古くから人や物資が盛んに行き来する交通の要衝でもあった。東西の気風が混ざり合った町並みや文化は、他にはない不思議な魅力であふれている。新緑に導かれ、元タカラジェンヌの越乃リュウさんと、上越、糸魚川、妙高3市のまちや里山に眠る宝物探しに出かけた。スタートは、城下町の面影を伝える高田地区と北前船の寄港地だった直江津地区。4回にわたってその模様を紹介する。
家々の軒先を結ぶように連なる雁木。点在する町家とともに高田地区のまちの顔でもある=上越市大町5
高田地区の大町通りや本町通りには、幕末から明治に建てられた古い町家が点在する。間口が狭いのに奥行きはかなりあり、交流施設の町家「高田小町」のように、家の中に土蔵が設けられた家も珍しくない。
19世紀に建った「旧今井染物屋」は、太い木材の
6月末までは、新潟日報が地域の魅力発信のため開設した「日報-まちメディア」として活用されている。
通りには、歩行者が風雪や日差しをよけるのに役立った木製の
高田小町を出ると、向かいにはアーチ型の窓が特徴的な洋風建築。現役の映画館として国内では最も古い歴史を持つ「高田世界館」だ。支配人の上野
約180席を備えた高田世界館。リュウさんは6月にコンサートを開く予定だ=上越市本町6
少し離れた南本町商店街には、十返舎一九の旅日記にも登場する創業約400年の老舗「高橋孫左衛門商店」がある。14代目の高橋孫左衛門さん(74)は、自家製のあめが歴代の高田藩主や天皇、皇族に愛されたエピソードを紹介。試食したリュウさんは「どれも深みがあって優しい味」と、アワやもち米など原料の違いを楽しんでいた。
江戸中期創業の高橋孫左衛門商店。外観も内部も独特のレトロな雰囲気がある=上越市南本町33
高田城の外堀であった青田川沿いを散策しながら「旧師団長官舎」の裏手へ。旧陸軍13師団長の長岡外史が明治末期に建てたモダンな建物は、外観や1階は重厚感ある洋風の空間だが、2階は座敷だ。
西洋風の応接室や食堂などがある旧師団長官舎=上越市大町2
リュウさんは「いろんな時代の足跡がたどれるまち。誇りと愛情を持って暮らす地元の方々の温かいおもてなしに感激しました」と話した。
直江津地区で最初に向かったのは「三八の市」だ。3と8の付く日に立つ朝市で、明治期から100年余りの歴史がある。
リュウさんは「どれもおいしそう」「ご飯を抜いて来れば良かった」と、地場産の山菜や農産物、コロッケなどの総菜を売る地元の人に駆け寄った。
三八の市で朝採ったコゴミを豪快にザルに取り分けていた男性に「1山200円は安いね」とリュウさん=上越市中央3
市の通りからすぐに「ライオン像のある館」の前に出た。回漕店を営んだ地元の実業家・高橋達太が、明治時代の直江津銀行を社屋として大正期に移築。北前船の寄港地で、近代には鉄道開通でさらに活気づいた直江津を象徴する建物の一つだ。
4月にリニューアルした内部は、金庫などに銀行の面影をとどめている。リュウさんが気になったのは「三越みたい」というライオン像。現地を案内してくれた「LLCまちみらい直江津」代表社員の磯田一裕さん(58)は、移築の際に鬼門に当たった元の玄関前に守りの意味で置かれたと解説。三越を経営する三井家とは石炭の取引で交流があったとみられ、「本当にまねたのかも」と笑みを浮かべた。
地元の石炭王が旧銀行を移築したライオン像のある館
家屋が密集し、風も強い直江津では古くから火事が多かったという。「土蔵造りの建物やレンガ塀などがあちこちに残るのはそのせいです」と磯田さん。リュウさんは坂や階段の小路を歩き、砂丘の上のまちの高低差を確かめていた。
高低差の激しい直江津のまち。地元で「しょうじ」と呼ばれる小路には階段状のものもある
北前船が行き交った江戸時代の船絵馬(日野宮神社)
写真家としても活動するリュウさん。三八の市のどら焼き店に並び「手際の良さと、餡(あん)がたっぷりで1個40円は感激します」とシャッターを切った。