第1弾 上越地域

[未来のチカラ in 上越]

越乃リュウ 宝物を探して

<2> 糸魚川編 大地が磨いた美と旬の味

圧巻のヒスイ巨石 奴奈川姫ロマン、思いはせ

新潟日報 2019/05/22

 2016年、日本鉱物科学会総会で「日本の石」(国石)に選ばれたヒスイ。糸魚川市の郷土史家・土田孝雄さん(82)は「この地を治めた奴奈川姫とヒスイは密接に関わっていました」と、境内に奴奈川神社がある天津神社を案内してくれた。

 拝殿に入って圧倒されるのは、上越市の日本画家・川崎日香浬ひかりさんが描いた大作。大国主命おおくにぬしのみことが奴奈川姫に求婚する古事記の場面が描かれている。土田さんは「奴奈川姫はヒスイの勾玉まがたまを身に付け、祭祀や政を行う卑弥呼のような権力者だった」と推測する。

奴奈川姫に大国主命が求婚する様子が描かれた日本画(天津神社)

 同神社には、ヒスイの首飾りも奉納された。作り手は糸魚川市の龍見雄記さん(79)。地元に「翡翠かわせみ工房」を構え、ヒスイ原石を拾って加工を手掛けるこの道50年の職人だ。「ヒスイは簡単には割れない。古代の人がどうやって玉にしたのか謎だらけ」と苦笑いする。糸魚川ではヒスイ原石を庭石や敷石にする家庭も多いと聞いたリュウさんは「国石だ、宝石だと特別視しないんですね」と驚いていた。

「昔は自分で道具も作ったよ」。ヒスイなどの原石や工具が無造作に置かれた龍見雄記さんの作業場=糸魚川市

龍見さんが糸魚川産ヒスイで加工した勾玉。さまざまな色がある(翡翠工房)

 「フォッサマグナミュージアム」で、ヒスイの見分け方を伝授してもらうことにした。館内には石や鉱物、化石がごろごろ。もちろんヒスイもたくさんある。「何これ、すごく大きい」。リュウさんは緑色の石の前で足を止めた。「緑のしずく」と名付けられた巨石は、ヒスイ峡で有名な小滝川で採取されたという。

フォッサマグナミュージアムでヒスイの巨石に触れるリュウさん。「吸い込まれそうな緑色」と圧倒されていた=糸魚川市一ノ宮

 学芸員の茨木洋介さん(45)によると、ヒスイのポイントは「白っぽくて角張った重い石」。緑色と思い込んでいる人が多いが、例えばチタンが入ると紫っぽく見えるなど、実際は鉱物の混じり具合でさまざまな色を帯びるという。

 海岸でのヒスイ探しを楽しみにしていたリュウさんだが、訪問時はあいにくの寒さと強い雨で断念。「次回のため、おさらいをします」と残念がった。

工房「和楽窯」、谷村美術館 丹精込めた逸品並ぶ

 糸魚川市には、気鋭の芸術家が多いと聞く。その一人が、同市西中で工房「和楽窯」を営む陶芸作家の山岸丈訓たけのりさん(41)だ。色が違う粘土を金太郎あめのように重ねていく「練り込み」の技法で花や葉などの模様を表現したカップや皿、花瓶を作っている。

 通常の作家が練り込みで使い分ける粘土の色は約10種類というが、山岸さんは「カップ1個でだいたい180種類の粘土棒をまず作ります」。削り出していく際に半分近い粘土が無駄になると聞き、リュウさんは「えー、もったいない」と驚きながら、境目が分からないほど繊細な濃淡の模様を見つめた。

「手間が掛かってますね」と、練り込み技法で繊細な模様を表現した山岸丈訓さん(右)の作品に見入るリュウさん=糸魚川市西中の和楽窯

 リュウさんも腕まくりし、2種類の粘土の練り込みに挑戦。こねてたたいて、おちょこ1個、皿1枚を作った。「どんな模様が浮き出てくるかな」。後日の焼き上がりが待ち遠しそうだった。

和楽窯で陶芸を体験したリュウさん

 糸魚川駅から車で5分ほどの場所に、県内外の美術ファンを引きつける「谷村美術館」がある。シルクロードにたたずむ遺跡のような建物は、文化勲章を受章した建築家の村野藤吾(1891~1984)が91歳で設計を引き受けた遺作。宝塚歌劇団に所属したリュウさんが「お世話になった」という宝塚市庁舎を造った人物でもある。

谷村美術館の外観は砂漠の遺跡のよう。黒姫山の石灰岩でできている

 彫刻家・沢田政広せいこう(1894~1988)の仏像作品を収めるために造られた内部は、白い洞窟みたいだ。「自然光を取り込めるように計算され、季節や天候、時間帯で作品の表情が変わります」とスタッフの七沢かおりさん(54)。

 栃木県日光市の太郎杉でできた弥勒みろく菩薩像、戦争で亡くなったわが子の魂を抱いて天に昇る「天彦」像。一つ一つをじっくり見て回ったリュウさんは「見る方向で全然違う」とうなった。展示室を抜けた先には、窓越しに日本庭園「玉翠ぎょくすい園」の絶景が広がる。春はツツジ、秋は紅葉が見事だという。

収蔵作品に合わせてデザインされた谷村美術館。洞窟のような雰囲気だ=糸魚川市京ケ峰2

地場魚のすし
 地場産の旬を味わうのも旅の醍醐味だいごみだ。地元漁師が営む「マナオ」(糸魚川市大町1)では、地元で水揚げされた魚をネタに、すしを自分で握って食べることができる=写真=。リュウさんは1週間ほど寝かせて、うまみが増した「熟成魚」でチャレンジ。「シャリは少なめで」「貝類はわさびが利きやすいので控えめに」といったスタッフのお手本を見ながら、ノドグロやヒラメ、サクラマスなど10種類を握った。リュウさんは「しっとりした食感。甘みがあっておいしい」とご満悦だった。

大火乗り越え
 大きな窓越しに日本海が一望できる。創業約200年の料亭「鶴来家つるぎや」は2016年12月の糸魚川大火で店舗が全焼。仮店舗を経て今年4月、大町2元の場所で2階建て新店舗をグランドオープンした=写真=。
 美術館風の外観に和の空間が調和した真新しい建物だが、焼け残った門柱が大火の記憶をとどめている。5代目の社長青木孝夫さん(69)に被災当時のまちの様子を聞き、言葉を失ったリュウさん。「新しい店も愛されるよう頑張っていきます」と話す青木さんに、「応援しています」とエールを送った。

撮っておきショット

 リュウさんがスマートフォンのカメラで撮った1枚。おちょこを作ったリュウさんは、"師匠"である山岸丈訓さんの作品を見て「こんなおちょこで飲んだら、おいしいでしょうね」。

[ 越乃リュウ 宝物を探して ] 記事一覧